メタボ特需、肩すかしの謎


対象は40歳以上75歳未満


今年4月から義務付けられてスタートした「特定健診」「特定保健指導」、通称メタボリックシンドローム撲滅プロジェクトである。特定健康診査でメタボリックシンドロームと判定された人、あるいは一定のリスクを持つと思われる人は、特定保健指導を受けなければならない。


知らなかったけれど、対象者は何も企業で働いている人だけではないようだ。

特定健康診査は、40歳〜74歳の医療保険加入者(国民健康保険等の被保険者・被扶養者)に対して実施されます。
特定健診は、全ての対象者が受診しなければならない項目(基本的な健診項目)と医師の判断により受診しなければならない項目(詳細な健診項目)があります。
http://www.wel.ne.jp/doc/healthcare/tokutei1-1.html

ということは、お一人様で仕事をしている私も受けないといけないということなのだろう。自分にはまったく関係ないと思っていた。


ともかく、それぐらいに国を挙げての動きである。マーケティング用語でいうところのPEST(Political/Economical/Social/Technological)に大きな動きがあるときには、たいてい何らかのビジネスチャンスが生まれる。たとえば駐車規制が厳しくなるときにはコインパーキングにチャンスが生まれ、飲酒取り締まりが厳しくなるときには飲食デリバリー業にチャンスが巡ってきたように。


メタボ対策の恩恵を受ける業界も、もちろんある。健康食品、健康関連器具(たとえばジョーバなんてのがそうだし、ちょっと前に流行ったビリーズブートキャンプもそうですね)、あるいは意外なところではゲーム(Wii Fitがここを狙ったいたのだとしたらすごい!)もあり、当然大本命としてフィトネス業界も手ぐすね引いて待ち構えていたはずだ。


豈図らんや。フィットネス業界に関しては今のところ、「特需」期待はまったくの肩すかしに終わっているようだ。

「追い風を期待していたが、ここまで出足が悪いとは思わなかった」。大手フィットネスクラブ幹部は、メタボ健診開始前の期待感と実際の落差をこぼす。
ティップネスは2008年12月期に10億円と見込んでいた法人契約収入を下方修正した(日経MJ新聞2008年6月20日9面)。


健診を受け、メタボと判断され、何か運動しなさいとお医者様に言われた人は、すでにいるはずだ。ところが「じゃあ、運動しなきゃ」」とは思っても「よし、フィットネスクラブに申し込もう」とはならない。当たり前である。


あるいはフィットネス各社は法人の新規会員を期待していたようだが、こちらも思惑が外れたようだ。これは推測だけれど、福利厚生の一貫としてフィットネスクラブと法人契約できるだけの予算を取れるところは、すでに契約済み。残っている企業には、いくらメタボ社員を放置しておくとペナルティーが科せられるといっても、急に法人契約を結ぶほどの予算がないのだろう。


さて、では、メタボと判断された人たちは、フィットネスクラブに行かないのだろうか。その理由を想像してみるに、たぶん行きたくても行けないのだと思う。そもそも対象が40歳以上である。ということは、たいてい職場では重要なポジションにあるはずだ。のんびりと運動しに行けるほどの時間的な余裕などない人が多数派だろう。


しかも40歳を過ぎてメタボと判断されたからには、これまでの人生で運動とは無縁の生活を送って来られた可能性も高い。そういう人たちがいくら「あなたはメタボですから、運動しないとダメですから」とお医者様に言われたところで「はい、さいですか」とばかりに体を動かし始めるとも思えない。


ましてやフィットネスクラブである。敷居が高いのである。そもそもメタボ体形の人たち等は少数派であり、フィットネス愛好家たちからは、やや哀れみと差別の入り交じったまなざしを向けられること必定なのだ。誰が、好き好んで、しんどい思いかつ肩身の狭い思いをしにフィットネスクラブに通うものか。


仮に、そうした心理的ハードルがすべて取り除かれたとしても、現状のフィットネスクラブは構造的な問題を抱えているのだ。すなわち『時間』である。着替えて、トレーニングして、お風呂に入って、休憩して着替えて、とやっていたら、2時間なんてあっという間に過ぎてしまう。そんなに優雅な時間を過ごせる40代は少なく、過ごせる人はそもそもメタボになっていない。


だから、ここでなぜフィットネス各社が出して来ないのかが不思議だ。カーブス(あるいはコンビニフィットネス)男性バージョンを。これなら30分でできる。シャワーもいらない。場所も小さくて済む。オフィス街に、カーブスforメンズが出てきてもちっともおかしくないし、あればきっと利用者はあると思うのだけれど。


もしかしたら、そうした展開をカーブスは考えているかもしれない。



昨日のI/O

In:
『インタビュー術!/永江朗
Out:
アシックス三村氏インタビュー原稿
夢の街創造委員会・中村社長インタビューメモ


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「内外価格差に注目」
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昨日の稽古:

・懸垂/腹筋/拳立て