百円フィットネス成功の秘密


お試し料金なら10分で100円


北海道にあるフィットネスクラブの料金設定である。ちょっとビックリの値段だ。そして実に「ジョイフィット」のプロモーション戦略の巧みさは、この「お試し」設定に秘められている。同クラブの運営母体は、地場のガソリンスタンド大手オカモトグループという。同社が多角化の一環として始めた「ジョイフィット」は、初出店からわずか6年で31店舗を数えるまでに成長した。


急成長の理由は3点ある。割り切った施設設計とターゲット設定、そしてガソリンスタンド経営のノウハウを活かした運営システムである。


その一。まず施設設計に関してはプールを省略した。この思い切りが財務面で大きなメリットをもたらしている。プールは極めて面積効率が悪い設備である。しかも莫大な燃料費がかかる。もちろんイニシャルコスト大きい。それゆえにプールなしであれば、出店コストはプール付きに比べて一挙に5分の1程度まで抑えることができる(日経産業新聞2008年7月9日付17面)。


しかも、従来のフィットネスクラブを対象とした調査によれば、プール利用者は平均して全体の15%程度しかないという。だからプールがなくても、8割以上のお客様は困らない。思いきってプールをなくすことで「ジョイフィット」は、出店時のコストを大幅に抑えることができ、すなわち浮いたコストを販促はじめいろんな用途に使える。


その二。ターゲット設定についても一工夫している。その象徴が「百円フィットネス」である。お試し期間中は登録費こそ2100円かかるものの月会費は不要である。しかも、このお試し期間に制限はない。その気になれば、永久お試し会員であることも可能なのだ。その間は、ずっと10分100円である。これが実に巧妙なスクリーニングとして機能する。


百円なら安い、しかも月会費はいらない。このアピールポイントは「そろそろ運動しようかな」「メタボ予防にも運動しなきゃな」と考えている人には、強く響くだろう。とりあえずお試しなんだし、という設定もユーザーサイドの心理的ハードルを思いきり低くするはずだ。


ところが、いざ運動してみると「やっぱり、しんどいな」と思って辞めていく人が「パレートの法則」に当てはめるなら8割程度いるだろう。しかし、残りの2割は運動の楽しさや喜びに目覚める人たちである。彼らが仮に、一日一時間の運動を週に3回ペースでやるようになったとする。そうなれば当然、会費と一時間百円のどちらが得かを考えることになるだろう。


すると、どうなるか。


一時間=100円×6、つまり一回600円である。週に3回なら1800円になる。ということは一ヶ月で7200円だ。レギュラー会員なら会費は月額5000円ぐらい、明らかに会員となった方がメリットがある。結果的に会員として残るのは、会員となることにメリットを認めた人たちばかりということになる。であれば、おそらくは退会率も低いだろう。ということは顧客を囲い込んだり、引き止めたりするためのコストをかけずに済むということだ。賢いではないか。


その三。運営システムにはガソリンスタンドのノウハウを注ぎ込んだ。ガソリンスタンドはここ数年、苛烈なまでの価格競争にさらされている。厳しい環境の下でおそらくは、無駄な経費はすべて削り取るノウハウが蓄積されていることだろう。そのシャープな感覚をフィットネスクラブの運営にも持ち込んだ。


同クラブでは各店に配される正社員はわずかに2人だという(前掲紙)。入退室対応もカードで管理し、人が対応することはない。フィットネスクラブがサービス業であることを考えれば、その対応はあまりにドライではないかと思う。反面で、そうしたシステムに納得済みのお客様が会員になっていることをあわせて考えれば、それで問題はないのだとも考えられる。ここにターゲットスクリーニングの効用がある。


まとめるなら「ジョイフィット」は、まず百円フィットネスを打ち出すことで、フィットネスへの最初の心理的ハードルを思いきり下げた。とはいえ、そこでやってきたお客様をすべて取りに行こうとは決してしていない。自社のシステム、提供価値を理解して納得してくれるお客様だけに会員になったもらうスタンスを明確に出す。


それはプールがないことであったり、あるいは受付でのスマイルがないことだったりする。しかし「それでもいいよ」と言ってくれる相手だけをお客様とするのが、同社の戦略である。だからコストを徹底して抑えることができ、その結果として売上高営業利益率15%という高い数字を叩きだしている。


他社と明確に差別化された戦略に基づき、組み立てられた商品の強さを理解する好例だと思う。同時に、顧客を選ぶ(=スクリーニングする)メリットも、このケースからは学ぶことができる。



昨日のI/O

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昨日の稽古:

・懸垂、拳立て、腹筋