四十歳からの空手15・初めての審査


そろそろ審査を受けてもらいましょう


稽古を始めて1年ぐらい経ったある日、支部長からいわれた。「審査って私が? あんな恐ろしいことを? マジで? 組手とかするん?」と頭の中を「?」がいくつも飛び交ったのだが、しかし。支部長はにっこりと微笑んではいらっしゃるが、断固受けてもらいますぞといった趣なのである。


こりゃ、引けんわいと覚悟を決め「わかりました」と私。
「本来なら白帯の人は青帯に挑戦してもらうのですが、今回は黄帯を受けてもらいますから」
「は?」
「三人組手をやりますので、そのつもりで稽古してください」
「え?」
と、何がどうなっているのかよくわからないままに、二ヶ月後の審査を受けることになった。


何しろ審査といえば、ウチの子がビビりまくった昇段審査しか見ていないのだ。息子の名誉のために正確に記しておくと、先にビビったのは私の方であり、後までずっとビビっていたのも私である。ちょっとぐらい組手がいたくなくなったからと言って、黒帯、茶帯の先輩の本気の突き蹴りに耐えられるわけがない。


そんなのをもらうのは、決定的にうれしくない。これはえらいことになったと悩んでいると、支部長が「でも、黄帯の組手では上の者はがんがん攻めませんから。審査で見るのは、きちんと受けができているか。受けから攻めへの流れ、攻めのパターンなどが身についているかなどです。そんなに心配いりませんよ」とおっしゃる。


う〜む。なんとも微妙な表現ではないか。すなわち「ガンガン攻めない」ということは、ガンガンではないが、一応はきっちり攻めるということではないのか。あるいは「きちんと受けができているか」ということは、突きや蹴りをいろんな形で出してくるということではないのか。「受けから攻めへの流れ」とか「攻めのパターン」ということは、先輩相手に必死に攻めていかないといかんということではないのか。


と次から次へとネガティブな方向への妄想が湧いてくる。ともあれ「受けてもらいましょう」といわれて、断るわけにはいかない。自分なりにできることをやるしかない。期限はわずかに二ヶ月足らずである。その間にできることはと考えた末、とりあえず体力をつけることにした。


それには走るのがイチバンである(というか、それしか知らないから)。家で仕事をした日には、その日やるべきことが一段落した夕方に、外に打合せに出た日には戻ってきてすぐに走った。幸い、走るのは決して嫌いではない。というか、どちらかといえば好きである。家のまわりにはちょうどいいぐらいの距離で(3キロから5キロぐらい)、景色もそれなりに悪くないコースがいくつかある。せっせと走り、あとは雑誌を読んで攻めのコンビネーションを真似する稽古をして、審査に臨んだ。


審査は大阪・松原にある同門の支部道場で行なわれた。一緒に受けた人が10人ぐらいだったはずだ。その中で白帯は私一人。めっちゃ緊張する。緊張したままで体を動かすと、疲れ方が感覚的に倍ぐらいになる。だから最初の基本稽古の審査だけで、ふらふらになった。審査となると、普段はあまりやらないような基本稽古、たとえば後ろ回し蹴りなどをいきなりやらされたりする。たぶん順応力をみておられるのだろう。が、そうした技は、相当に難しい。自分でも体がうまく回っていないなあとか、蹴り足がちっとも上がっとらんじゃないかということよくわかる。


「あかん、ちゃんとできてへん」という思いが、焦りにつながるのだ。焦るとさらに動きはぎこちなくなる。そんな中で基本稽古が終わり、補強(拳立てとか腹筋とか)が終わり、約束組手を経て、いよいよ最後の三人組手となった。


一人目は、松原の道場長である。この方とは稽古を一緒にさせていただいたことさえなかった。体はいかつい。ほとんど支部長と同じぐらいのガタイをされている。にもかかわらず動きが速い。後に知ったのだけれど、現役選手として全日本級どころか世界大会に出ておられるような方であった。そして顔が怖い(ごめんなさい、最初はほんと、そう思いました)。


が、組手は意外にやさしかった。もちろん、相当に加減してくださっていたのだと思う。なぜなら、1分間の組手の間に二回程出された蹴りは、あまりにも速すぎて手でガードすることはおろか、蹴りに反応することさえできなかったから。もちろん、こちらのレベルがそれぐらい低いことはすぐにわかっていただいたようで、一発も本気では当ててこられなかった。やれやれである。助かった。


二人目、三人目も黒帯の先輩である。こちらは普段から稽古をつけてもらっている方なので、ほんの少しだけ気も楽である。そこで一生懸命に攻めた。攻めることに必死になったばかりに、守りがまったく疎かになってしまい、上段を足でなでてもらったりしたけれど、それでも攻めた。がんばった(つもりだった)。


あっという間に三人組手は終わり、礼をして戻ってくると、あまりの緊張から急に解放されたせいだろう、頭がキ〜ンとなった。




昨日のI/O

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昨日の稽古:

レッシュ式腹筋、拳立て、懸垂