四十歳からの空手16・○盛さんがやってきた


黄帯をもらった


何とか審査をパスしたのだ。が、ひと言釘を刺されもした。
「新しい帯の色というのは、帯を出した時点でそれだけの実力があると認めたわけではないので誤解しないでください。帯に色がつく、色が変わるというのは、その帯にふさわしい稽古を、これから始めてくださいという意味です。だから、これからは黄帯の稽古をがんばってください」


なんだか、よくわからないが、とりあえず稽古内容がこれまでとは変わるということなのだろう。とはいえ、それが具体的にどういう意味を持つのかは理解できていなかった。組手稽古をするまでは。


やがて黄帯を巻いて初めての組手稽古をしてみて、その意味がよくわかった。これからは、これまでより、少々厳しく攻めますよということだったのだ。白帯のときの組手では、先輩はほとんど受けるだけだった。よほど、こちらの上段ががら空きのときに、ちょいと足で頭をなでてくれるぐらいはする。あるいは、前蹴りをちょいちょいと蹴ってこられて、こちらがまっすぐに下がるのを「どうするんすか!」と考えさせてくれたりもする。


けれども、基本的に攻めることはない。そのやさしかった組手が、こちらが黄帯になって少し変わった。私の攻めに合わせて先輩も軽く攻めてくるようになった。あるいは、自分から行かなければ先輩の方から攻めて来られる。白帯から黄帯になるというのは、こういうことだったのである。


そして、変化はそれだけでは済まなかった。


なまじ飛び級などしてしまったために、私より先に入門していながらも仕事の都合などで審査を受けていない何人かの先輩を飛び越すことになったのだ。すなわち相手の方が早くから入門されていて、ということは私よりキャリアも長いわけだ。にも関わらず黄帯をして青帯の先輩と組手をする。もちろん、相手はこちらがへぼっちいことは重々ご承知なので、それなりに手加減はしてくれる。


のだが、中には私よりうんと若くて、それ故に血気盛んな青帯の人もいる。そして審査を受けられないぐらい仕事が忙しいから、普段はそんなに稽古に来られることもない。当然、ほとんど面識もない。そういう人にとっては、私がどういういきさつで黄帯を締めているのかはまったくわからないはずだ。勢い、組手のときには当然、私の方が上だと思ってがんがん攻めてくる。これは結構きつかった。


そんなある日、○盛さんがやってきた。


その日、最初の基本稽古をしていると、えらくガタイの良い人が入ってきた。私より古くからいる人たちは「おっ」とか「○○さんや」とかささやいている。ということは、私が見かけるのは初めてだけれど、ずっと以前からおられる先輩なのだろう。その人が途中から稽古に入ってこられて、たまげた。


ちょうどミット蹴りの稽古をしていたのだが、音が違うのだ。私などが回し蹴りをいくらがんばって蹴ったとしても、せいぜいが「パン」とか「パシッ」ぐらいの音にしかならない。これを称してマル系もしくは半濁音系の蹴りという。ところが、この先輩の蹴りは「バズッ」とか『バヂ〜ン」というテンテン系あるいは濁音系の重低音を響かせている。蹴りが叩き込まれるたびに、ビッグミットが「く」の字になる。それはまあ、えげつない蹴りである。


そして、そのえげつない蹴りはミット稽古だけに収まることはなかった。


組手である。もちろん○盛さんは、私がどんな経緯で空研塾に入門し、どのような稽古をしてようやく黄帯に至ったかという事情などまったくご存じない。何も知らない人にとっては、私も単なる黄帯の一人である。そして長い間稽古を休んでいた○盛さんも、恐ろしいことに同じ黄帯である。同じ帯同士であれば、実力も同じ。というのが相場である。実力が同じであれば、そこそこ攻め合いに行ってもよい、というのが不文律である。


というぐらいの気持ちでおそらく私と向かい合った○盛さんは、「始め」の声がかかるや否や前蹴りを出してきた。その蹴りは、これまで先輩から受けてきた前蹴りとは速さがまったく違った。あっという間に鳩尾に中足が叩き込まれ、私は吹っ飛んだ。構えた位置からまっすぐ後ろに1メートルぐらい蹴り飛ばされた。こんなことは初めてだ。


それでも何とか立ち上がって構え直すと、次はワンツーが来た。バズン、ガヂンと肩に衝撃が伝わる。それだけで固まってしまった私に、もう一度、前蹴りが飛んできた。今度はいくぶん加減してもらったようだけれど、その分、鳩尾に蹴りがきっちりめり込んだ。「ぐっふ〜」とお腹から息が漏れ、息ができず、声が出ない。鳩尾に正確に突きや蹴りが決まると、上半身と下半身がバラバラになり、どちらにも力が入らなくなる。これも初めて知った。


今度はひっくり返りはしなかったけれど、両膝に手をあて下を向いて体を支えるのがやっとである。えらいことになってしまった。



昨日のI/O

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昨日の稽古:

レッシュ式腹筋、拳立て、懸垂