新幹線でまいったこと



のぞみ11号車の1C


予約を取るときに、まず狙う指定席である。なぜ、この席が良いかについては以前にも書いたことがあるので省略する。昨日は東京への取材出張が早くから決まっており、いつも通りネットで席を取った。


3日以上前にEX予約すれば、料金もいくらか割安になる(はずだ、確か)。「のぞみ」の中でも狙うのは大阪発の編成である。博多や広島、岡山からやってくる「のぞみ」に比べて、当然、空いている確率が高い。案の定、予約を入れた先週末の時点では、11号車もまだガラガラに近かった。よっていつものように11号車1Cを押さえた。


ところで取材前にはいつも、当日のシナリオをしつこく考える。もとより取材相手には事前に、質問項目を送ってある。だから、そこから外れた展開に意図的に持ち込むことはない。とはいえ、インタビューは基本的にその時、その場での勝負だ。もちろん取材相手に対してけんか腰で戦いを挑むというわけではない。基本的には、相手が専門としていること、よく知っていること、語るべき内容を持っているテーマについて話を伺うのである。


しかし、インタビューが予想通りの予定調和で終わってしまってはつまらない。こちらが事前に調べた内容をなぞるだけのインタビューにはしたくない。仕事としてインタビューを受けてくれているのだから、よほどの失礼でもない限り、相手は一通りのことは話してくれる。けれども相手だって、それまでに何度も何度も繰り返し尋ねられてきたことをしゃべるだけでは、決しておもしろくはないだろう。


だから、シナリオをあれこれ考えるのだ。


取材項目の大筋は、取材相手を選んだ時点でほぼ自動的に決まる。稀に一人でいくつものテーマについて語れる人物もいるが、それでもその人の手持ちのネタの中のどれかに話は絞られる。取材前には相手の著書を読み、過去のインタビュー記事をググって目を通す。さらに突っ込んで、相手の名前&取材テーマで検索をかけてみると、そのテーマについて書かれたブログを見つけることもできる。


ブログは玉石混淆ではあるが、ときに「これは!」と思うエントリーにぶつかったりする。参考になるのは、対象となっている相手の考えに対する反論系のエントリーだ。相手の著書やインタビュー記事ばかりを読んでいると、いつの間にかこちらの頭が勝手に洗脳されてしまうことがままある。要するに、特定のテーマに関しては、件の相手の見方と同化してしまうわけだ。


こういう状態に陥ってしまった状態でインタビューに臨むのは、リスクが大きい。そこで役に立つのが反対意見なのだ。一つの考え方があれば、必ずそれに対する反論が成立する。その反論に触れることで、偏っていた自分のポジションをいささかなりとも中立に揺り戻すことができる。


とまあ、そういう準備をした上で、さらに取材項目の一つひとつについて、どんな話をキッカケに持ってきて、どういう流れに誘い込み、どのタイミングで意外な質問を挟もうか、などと考えるのが、自分にとってのインタビュー術となっている。


究極のゴールは、相手が新しい考え方を見つけたり、何かこれまで思いもよらなかったアイデアに気づくことだ。そのためにこちらは基本的にじっと聴き役に徹するのだが、時に相手の言葉に「?」を投げかけて相手のリズムを少し崩すことに神経を集中する。調和の取れたコードが響いている最中に、テンションノートを放り込むようなものだ。その不協和音に相手が引っかかり「ん? 何か変!」と少し立ち止ま、考えを練り、再び転び出したときに、最初とは少しばかりベクトルが変わっていれば成功だ。


そのとき引き出せる話はたいていおもしろい。こちらの予習にはなかった内容であり、話をしている相手自身がはじめて語る内容だったりもするから。


もっとも、これは僥倖である。そんなインタビューに発展することはそうそうはない。ないけれども、そんなハプニングを起こすためには入念な下調べがいるのである。インタビューに臨む前に、あらかじめどんな流れに持ち込めそうかを考えておかなければならないのだ。もちろん考えておくべき流れは一つではダメ。臨機応変に、かつスムーズに対応するためには何通りかのパターンを想定する必要もある。


その最後の仕上げをし、頭の中でリハーサルするためのが取材先に向かう新幹線の中である。故に空いている「のぞみ」11号車1C席が必要なのだ。うまくいけば3人掛けの席を一人で使える。悪くとも窓際に誰かいるだけ、真ん中の席はまず間違いなく空いている。よって雑音に邪魔されることなく、あれこれと思い巡らすことができる。


今回もそのはずだったのだが、さて。3月11日の朝、京都駅を7時53分に出発した「のぞみ210号」は、いつもと少しばかり勝手が違った。3人掛けのA席とB席がすでに埋まっている。座席の後ろには大きな荷物、知っている人が見ればそれとわかるカメラバッグである。真ん中の席に座っているオヤジの足もとにはムービーカメラが置かれており、窓際の席にいるのはそのアシスタントらしき女の子だった。


この二人が史上最悪のコンビだった。何しろ京都から東京まで、ずっとしゃべりっぱなしなのだ。しかもその話題は次から次へと何の脈略もなく移り変わり、たいていはオヤジの「おれ、こんなこと知ってるんやけどな」的セリフから始められる。さらに悪いことには聞こえてくる話の大半が「マスコミ的にはそういわれてるけど、ちょっと考えたらそうやないことがわからんか」的ネタのオンパレードである。


とりあえず音としてうるさいのに加えて、その中身までが妙にこちらの意識をちくちく刺してくるために、シナリオ作りにまったく集中できない。結局、その二人は品川まで、ずっとそんな話を車内の静けさを明らかに乱すボリュームで続けていた。


そしてとどめである。


品川駅に列車が滑り込もうとするときのオヤジのセリフを、忘れることはないだろう。「それにしても、この間新幹線に乗ったときは、まいったで。隣におばはんの二人連れがおってな。そいつらがずっとしょうもないこと、しゃべり続けとんねん。おかげで雑誌読んどっても、ちっとも頭に入ってけえへん。しゃあないから寝よか思ても、うるそうて寝られへん。ほんま、列車の中のマナーをわきまえん奴が増えてきてるわ」……だと。


昨日のI/O

In:
ビル・トッテン氏インタビュー
Out:
J社アニュアルレポート企画

昨日の稽古: