10年前の日本と10年後の日本




このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『フォーリンアフェアーズアンソロジー』についてのレビューです。


素晴らしい。そして恐ろしい。

日本は、構造的問題ゆえに衰退の瀬戸際に立たされており、その徴候はすでに現れている。(中略)
日本の貿易黒字も過去3年間で初めて低下し、11.7%減の1180億ドルになった(同書、66P)


と書かれたのが2000年7月のことだ。ちなみに2009年度の貿易黒字は、ざっと660億ドルぐらいだから、ざっと45%減である。つまり、この10年間で「構造的問題ゆえに衰退の瀬戸際に立たされて」いた日本は、今や絶好調「衰退」中ということではないか。


何が素晴らしいのかといえば、10年前に10年後の姿を的確に予想してレポートを書いた著者の慧眼である。


何が恐ろしいのかといえば、10年前の予想が見事に的中してしまった現状であり、しかもことここに至っても10年前の予想の前提となっている状況が何も変わっていないことである。何も変わっていないどころではない。正確に言うなら(言いたくはないが)悪化、劣化している。


例えば筆者の指摘する構造的問題の象徴が、国会議員に占める二世・三世議員の多さ。これが1996年時点の衆議院選挙では500議席中122議席を占めていた。占有率24.4%である。


二世・三世議員はその後、どうなっているか?


2003年のデータによれば185人である(→ http://www.notnet.jp/data01index.htm#heredity2-1)。この時点での定数が480だから、占有率は38.5%になる。構造的問題の象徴が二世・三世議員の占有率だとすれば、状況は確実に悪化していることになる。


このレポートのタイトルは『官僚と政治家が日本を滅ぼす』である。では、もう一方の悪役、官僚はどうなのか。なぜ、官僚が日本を滅ぼすのかと言えば、既得権益をがっちりと固めて離さないからだ。問題の本質は天下りであり、天下りとは要するに税金のねこばばである。


どれだけ多くの税金が無駄に使われてきたかは、今さら指摘するまでもないはず。その膨大な無駄遣いの一端が暴かれたのが、事業仕分けである。とはいえ現実問題としては、ショーアップされた事業仕分けが見せてくれたのが、ねこばばのほんの先っちょだけだろう。


ことは人間の本質に関わる問題なのだ。いったん自分たちが確保した権益を、人は早々簡単に手放したりはしない。というか、必死になって守ろうとする。個人的には正義感を持っている官僚も多数いると信じている。しかし組織の論理の前で個人の力は余りに弱い。だから既得権益を掴んだ組織は、自己肥大する。カタストロフィーを迎えるまで。


一時的に、奇跡が起こりかけた時期もあった。小泉改革である。既得権益でガチガチに固められた構造をぶちこわすことができるのは、奇人か変人か野蛮人だけだ。それも度を超えた剛力が求められる。妙なたとえだけれど、富士山を引っこ抜いて、逆さまに日本列島に突き立てるような力でもない限り、戦後何十年もかけて固められた構造をたたき壊すことなどできない。


小泉さんがやろうとしたのは、そういうことだったはずだ。しかし小泉後のていたらくぶりはどうか。これぞ既得権益層による反撃である。あまりのひどさに民主党なら何とかなるかもしれないと期待する人が増えた。その結果が去年の選挙だったのだろう。ところが、残念ながら民社党には奇人変人野蛮人の類はいなかったようだ。もしかしたらいるのかもしれないが、表には出てきていないようだ。


自民党には、小泉さんの血を引いた人間がいる。しかし、彼にそこまでの剛力を感じることは、残念ながらない。この先、この国は一体どうなるのか。


繰り返すけれど、10年前のレポートが指摘した通りに状況は悪化しており、なおかつ10年前に指摘された構造的問題は何一つ解決されていない。解決されていないどころか、確実に悪化している。それが現状である。では現状の10年後はどうなっているのだろうか。ノーマルに考えるなら、さらに悪化していくことになるだろう。


このアンソロジーは、そうした過去のレポートが12本掲載されている。過去の時点での未来予測を読めば、これからの未来予測に極めて有効な資料となる。日本社会のこれからに関心のある方は、必読のレポートだと思う。


ところで10年後、自分は60歳。子どもは24歳である。子ども達に、このまま悪化する10年後の日本を残して良いわけがない。自分に何ができるのだろう。



昨日のI/O

In:
『夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです』村上春樹
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昨日の稽古:

懸垂