お金の流れが変わった


お金の流れが変わった! (PHP新書)

お金の流れが変わった! (PHP新書)



このエントリーは、R+さんから送っていただいた献本『お金の流れが変わった!』大前研一著についてのレビューです。


92兆4100億円


来年度予算の一般会計総額である。要するに、来年の日本はこれだけのお金を使うということ。使うためには、どこかからお金を持ってこなければならない。普通、国がお金を使うときは、税金でまかなう。税金でたりなければ、借金をする。この借金を国債という。


では、来年の日本の会計収支はどうなっているのか。税収は41兆円だそうだ。使う予定のお金が92兆円以上あるわけだから、税収だけでは51兆円ほど足りない。そこで国債をどれだけ発行するかといえば、44兆3000億円である。税収よりもたくさんの借金をする。ちなみに来年度の会計のうち21兆5000億円が、過去の借金を返すために充てられる。


ここで、普通の感覚なら思うだろう。すごい借金やなとか、その借金、いつ、誰がどうやって返すんやろうとか。あるいは、そもそも誰が、今年も、そんな莫大な金を貸してくれるんだろうと、ごくノーマルに考える人がいても何も不思議はない。


国家財政を家計に例えると、誤解を招きかねないので、あえてそのアナロジーは使わない。ただ、ここでは収支のバランスの異常さをおわかりいただければ、それでいい。もちろん税収と国債が、日本ほど極端なアンバランスになっている先進国はない。高齢化、少子化だけでなく、国家財政の異常化でも、日本は世界でダントツのトップを走っているのだ。


野口悠紀雄先生は、日本国が今のように国債を発行し続けることができるのは、最長で9年と見立てておられる(→ http://diamond.jp/articles/-/10574)。


こうしたいびつな状況について大前先生は、どうおっしゃっているか。

「こんな膨大な借金を返せるわけがない」という事実に気づき、だれかが声をあげたとたん、暴落が始まるのだ。そうなったら、いくら政府が「カネはいくらでもある」と吠えたところで止まらないだろう。まさに市場が国に制裁を加えるのだ。そして行き着く先はデフォルト、預金封鎖ハイパーインフレ、あるいはそれらの組み合わせしかない(『お金の流れが変わった!』大前研一PHP新書、2011年、P149)


オーマイガァー!


普通なら、これほどまで財政がひどい状態になると、誰も日本国債など買わなくなる(あるいは買ってくれるとしても、金利がとても高くなる)。返してもらえる可能性が低い相手に、お金を貸す人はない。まともに考えれば、誰でもそう思う。だから海外の人は日本国債をほとんど買わない。


じゃ、買っているのは誰か。日本の金融機関である。金融機関は何を原資に買っているのか。みなさんの貯金である。その貯金は、いつまで持つのか。野口先生は、最長9年とおっしゃっている。


でも、いざとなったら国は何でもできる。借金なんかチャラだといえる。そんな無茶苦茶なことをしても、海外で日本国債を買っている人はごくわずかだから、国際問題にはならない(現実問題として、連鎖的にとんでもない状況になるとは思うけれど、それでも海外は比較的冷静を保つ可能性も考えられる)。とりあえず日本国債は、日本国内の問題である。


最終的に政府が何をするか。考えられる手段は三つあると、大前先生は指摘する。
1)国債を新しい国債と交換する。ただし以前の国債100に対して、新国債は30の比率にする。つまり借金の7割カットである。
2)紙幣を新しくする。ただし旧紙幣と新紙幣の交換比率を変える。旧一万円札を新紙幣3000円と交換する。
3)預金を封鎖する(前掲書、P157 )


そんなことあり? ありである。そうしないと、いずれ日本国債は破綻するだろうから。他に何とかする手段はないのか。微かに、ないこともないぐらいのレベルでなら存在する、と大前先生は教えてくれる。


海外、特に新興国の需要を取り込んで日本経済を活性化させるのだ。具体的にいえば、鉄道、原子力発電などのインフラを売り込めばいい。原子力発電所の需要は、いま明らかになっているだけでも100基以上ある。1基あたりの建設費が5000億円だから、50兆円の顕在化ニーズだ。(前掲書、P184 )。このニーズを確実に掴むことができるかどうか。


あるいは新幹線型の高速鉄道に加えて、沿線近郊の住宅地開発までを含む私鉄型の鉄道開発モデルを輸出する手もある、と先生は指摘する。実は日本のような私鉄ビジネスは、世界でも例がないらしい。だから沿線開発は日本の私鉄だけのノウハウとして通じる可能性が高いのだ。


また水道などのインフラも可能性がある。ただし、この場合は集金システムまでをパッケージ化することが肝要だ。これらの事業を、これからインフラ整備が必要になる新興国で展開して、稼いだお金を日本に持ってくる。それが日本の生き延びる道だと大前先生は指摘する。


ということは、人が最大のポイントなのだろう。つまりは教育がカギを握るということになるはず。海外で事業をどんどん展開していけるような人材を、どうやって育てるのか。それも最長9年以内に。


そんなこと、できるわけがない。とごく普通に考えるのなら、遅くとも5年後ぐらいをメドに、どこで(日本以外の)、どうやって暮らしていくのかを真剣に考えないといけない。という気づきを与えてくれるというか、警世の書が、この『お金の流れが変わった!』だと思った。



昨日のI/O

In:
『お金の流れが変わった!』大前研一
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昨日の稽古: