人の話を素直に聞ける力


ラバウル温泉遊撃隊

ラバウル温泉遊撃隊


66年前のラバウル島に温泉があった


自称「温泉の申し子」山崎まゆみさんは、そんな話を聞きつけ、実際にラバウルまで温泉に入りに行く。そこでジャングルの奥にあるという、幻の宇奈月温泉に取り憑かれてしまう。


温泉の申し子だから、どうしても行きたい。でも、手がかりが何もない。そこから山崎さんの取材の旅が始まる。ごくわずかな手がかりを頼りに、少しずつ本当に少しずつ調べを進めていく。


第二次大戦中、ラバウルに駐在していた日本軍が作った温泉が、山の中にある。その温泉を突き止めるためには、どうすればいいか。ラバウルにいた元日本軍の方に話を聞けばいいのだ。しかし、それは決して簡単なことじゃない。まずラバウルにいた日本兵にどうやってたどり着くのか。


仮にたどり着けたとしても、すでに戦後66年が経っているのだ。当時二十歳だった方でも、もう86歳である。取材が始まったのは少し前だけれども、みなさんかなりの高齢になっておられることは間違いない。そんな方々とどうやって出会うのか。


運良く、お会いすることが出来たとして、戦争中のことを話してもらえるかどうか。ラバウル宇奈月温泉に行ってみたい、と軽く思いついただけなら「そんなの絶対無理」と諦める理由には事欠かない。でも、山崎さんは諦めない。


ありとあらゆる伝手をたどって、会える人がいれば、すぐに飛んでいく。会っても、みんなが快く戦争中のことを話してくれる訳じゃない。思い出したくない時間として、記憶を封印している方もいる。それでも山崎さんは相手の懐に飛び込んでいく。


ご高齢の方が相手となると、話を聞き取りにくいことだってあっただろう。わかりにくい内容になることもたびたびではなかった。でも、たいていの取材相手が、最後は「あなたに話せて良かった」と声をかけてくれる。


取材者冥利に尽きるひと言だと思う。


やがて日本での話を聞き尽くした山崎さんは、マラリアを持つ蚊と凶暴と恐れられる原住民が待ち受けるジャングルに赴く。話を聞かせてくれた方のためにも、行かねばならない。そんな使命感を持って。


そして………。


この先は、ぜひ本書をお読みいただきたい。人からお話を伺って文章にまとめる。ほとんど同じことを生業としていながら、山崎さんのピュアな仕事の進め方と、それ故に紡ぎ出される文章の清澄さに、学ばなければと思った。


それにしても、現地の若者(?)と混浴している山崎さんの笑顔。表紙がいい顔をしている本に外れはないと思っているけれど、まったく、その通りの一冊だった。


昨日のI/O

In:
狂人日記色川武大
Out:
S社OB座談会原稿


昨日の稽古:

肩ほぐし
懸垂