衰退産業をどう活性化するのか



ピーク時1.8兆円の売上が3,100億円に


呉服小売市場は、縮小し続けている。2010年の3,100億円も前年比では約9割に落ちている。京都では和装振興のために、市長さんがいつも和服を着ていたり、MKタクシーさんが着物姿での乗車に割引をつけたりしている。


また『京都の街を一日、着物で観光しよう』サービスも、いろいろあるようだ。要するに着物を着付けしてくれて、写真も撮ってくれて、あとは自由に観光してきてくださいと。これは京都観光に来られる若い女性には、そこそこ受けているのではないか。


が、それだけでは呉服小売市場の回復はおぼつかない。今から約半世紀前には、まだそれなりの数の女性が着物を日常着としてきていた。いま五十代以上の方なら、割烹着姿の女性を、記憶のどこかに残しておられるのではないか。


そんな時代は、礼服といえば留袖である。成人式には振袖を買う。嫁入り道具には、TPOに合わせられるよう着物を一式揃えてもたせる。ところが、今やそんな風習は過去の遺物となってしまった。着物に対する需要がないのだ。


バブルの頃までは、まだブランドきものが、ぜいたく品需要をなんとかキャッチし、少しは売れていたのだろう。着物の売上ピークは1981年である。マーケットサイズが盛時の6分の1にまで縮まるとなれば、マーケットライフサイクル的には完全な「衰退期」である。


マーケティングの教科書的には、衰退期には撤退戦略をとるか、徹底したニッチャー戦略で生き残りを図るかのいずれかだ。中途半端に事業を続けて、負債をふくらませるの最悪の選択肢となる。


京都の呉服業界もまた然り。呉服がダメなら毛皮だ、宝石だとばかりに手を広げた結果、20年前の業界一位企業は既にない。それほど厳しい業界で、その川上はどうなるか。例えば呉服の元となる絹糸を作っている業界、あるいは着物メーカー。メーカーといっても、着物ができるまでには数多くの工程があり、分業化されている。


呉服にかぎらず、京都の伝統産業の特長は、高度に分業化が進んでいることだろう。だから、伝統産業が危機を迎えている。後継者がいないのだ。仮に着物を作るプロセスのどこかで、跡継ぎを欠いてしまうと、その時点でジエンドとなる。以前と同じ工程で着物を作ることはできなくなるのだ。


ことは着物に限らない。ふすま絵、扇子など伝統的な工芸品で分業が必要なものは、どこも同じような危機に瀕している。


じゃあ、どうすればいいのか。行政が補助金を突っ込んで、延命策を図ればいい、わけでは決してない。逆に考える必要がある。例えば着物産業が日本で、何百年も生きながらえてきたのはなぜか。人々のニーズがあったからだ。では、なぜ今危機に瀕しているのか。ニーズがないからではないか。


装いは時代とともに、生活習慣とともに、人のライフスタイルと共に変わっていく。そのことは歴史が証明している。変化するのであれば、もしかすると再び着物を着るようになるのかもしれない。けれども、いつになるのかわからない変化を待っているのは、座して死を待つのと変わらない。


それよりも新たなニーズを開拓することではないか。そのためには、何らかの革新が求められる。素材に、製造技術に、用途提案に、販売形態に、そしてユーザーとのコミュニケーションにも。


既に芽は出始めている。京都伝統の金箔紙を、見事なまでの裁断技術を用いて、新たな照明器具として開発された『izayoi』だ。伝統的な技術自体の素晴らしさを、いかに今に活かすのか。


このテーマに挑む講演会が開催される。和装、呉服、繊維、生糸などに関心のある方は、ぜひ、この無料講演会に参加してください。


『次世代型繊維への挑戦』講演会&名刺交換会
日時:12月15日(土)午後1時開始 ※無料


場所:京都工芸繊維大学センターホール
講演者&講演内容
1)谷岡明彦氏(東京工業大学名誉教授)
・繊維産業は再び発展する〜さて大学はどうする
・ナノファイバールネッサンス
2)長嶋孝行氏(東京農業大学教授)
・千年持続社会と第二次養蚕業時代
・NEW SILK ROAD

昨日のI/O

In:
『真相』ロバート・B ・パーカー
Out:
超電導原稿

昨日の稽古:

ジョギング