話しやすい質問とは


この10年で、約500人。


取材、インタビュー、アンケートなどでたくさんの人の話を聞いてきた。
ごく普通の主婦、カルチャー教室などの先生、子どもから大学教授、一
部上場企業の社長さん、そして国会議員まで。


振り返ってみれば、私にとっては人の話を聞くことが仕事みたいなもの
だ。聞いた内容は、ほぼ必ず何かの形で文章にまとめている。その体裁
は情報誌の特集記事になり、あるいは調査レポートとして提出されるこ
ともある。はたまた○○社長の自伝となり、企画提案書としてプレゼン
の場に望んだこともある。


話を聞いて=インプット
文章にする=アウトプット


プロセス自体は、10年でほとんど変わっていない。できる限り下調べ
をし、あらかじめ質問項目をできる限りたくさん考えておき、基本的に
テープをとる。


変わったのは、私の構え方だろう。最初の頃は、緊張しまくりだった。
適切な質問を思いつかず、沈黙の瞬間が訪れることを異常なまでに恐れ
た。特に代理店の人間が同席してのインタビューでは、「…、…」といっ
た時間が流れることは、自分の能力不足をさらけ出すことだと思い込ん
でいた。


ノートの取り方も変わった。話を聞きながらできる限りメモをとるスタ
イルから、キーワードのみを書きとめるようになった。それも、せいぜ
い1ページに3つか4つだけ。それよりも話している間に浮かんできた
次の質問をメモる、みたいな。


さすがに10年もやっていると、その間の経験が活きてくる。あるとこ
ろで聞いた話が、別の人を取材している時にひょこっと浮かんできて、
それをひと言挟むことで、会話が転んでいくような。この間に読んだ本
から得たネタも、同じような効果を上げている。


個人的スキルとしてコーチングを学んだことは、話を聞き出す力をたぶ
ん50%は高めてくれただろう。コーチングで身に付いたのは、相手の
気持ちになって考える姿勢だ。質問を投げかけるのはこちらだが、その
質問を受けて相手がどう考えているのか。どんなプロセスを経て、回答
してくれているのか。そうした相手の心理にフォーカスし、ひたすら聴
く姿勢に徹する。人はしゃべりたいのだ。特に自分のことと、自分がよ
く知っていること、あるいは不平・不満・不信など「不」のつくことを。


沈黙も恐れなくなった。ほぼたいていの場合、相手が黙っているのは考
えているからだ。そんな時は、下手に助け舟を出すよりも、じっと黙っ
ていたほうがいい。そんなノウハウも身に付いた。


いわゆる『えらい』人にたくさん逢えたことも場数は踏む意味では大き
い。一部上場企業の社長さんに、その社長室でお逢いできる機会なんて、
まあなかなかありませんよね。中には『Forbes』で世界の大富豪トップ
10とかに入った人とかもいるな。あるいは内閣府の特別顧問室なんて
ところにも、よほどのことがない限りは立ち入らないだろう。とにかく
この6年ぐらい関わっている仕事の条件が、写真を見たら「あら、あの
人じゃない」というぐらいの知名度がある人に話を聞くこと。なので、
いきおい著名人と話せる機会も多い。


そんな経験を繰り返していると場慣れする。どんなにえらい人とお逢い
しても、わりかし平静でいられる。これは完全に役得。この仕事をやっ
ていればこそ達することのできた境地だろう。


といって『普通』の人へのインタビューがつまらないかというと、まっ
たくそんなことはない。というか、こちらの方が展開が読めないだけに
おもしろい。捨て難い魅力があるのだ。どういうことか。


えらい人に話を聞く場合は、ある程度答えが読める。事前に資料やその
人の書いた本などもできる限り読んでいくので、ツボをあらかじめおさ
えておくことができる。ところが相手が普通の人だと、そうはいかない。
そんな時もやはりフォーカスするのは、その人の思考パターンだ。性別、
年齢、キャリア、テーマに対する関心の強さなどによって、考え方はまっ
たく違ってくる。どちらかといえば、こうした人から話を聞き出すとき
こそが、腕の見せ所になるのかもしれない。


何しろ素人さんである。こちらの質問に答えなかったとしても、何のデ
メリットもない。だから自分には興味ないと思ったら、そこで話が止まっ
てしまう。この場合の沈黙は、答えを考えてくれてるんじゃなくて「つ
まんないな。早く終わんないかな」的サイレンスである。こうなった時
に、どうやって話をつないでいくか。


これも長年の経験のおかげで必殺技を見つけた。相手が話したいことを
聴く。これに尽きる。









本日の稽古:

●地獄の2分稽古
 ミット2分を何セットやったんだろ。久しぶりに目の前が真っ暗にな
 りましたぞい。

●移動してのミット
 突きの時に、またガチガチに力が入っているとの指摘。脱力をもっと
 意識しないと。

●スパーリング
 最後のスパーリングでは、左をレバーにいれるよう意識したけれども、
 疲れきっていて突きはとろく、蹴りもハエがとまりそうな状態では、
 とてもとても。


 スタミナ稽古、してみてわかる、我も歳なり


MBAコースでは教えない「創刊男」の仕事術

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