阪神の三度目の正直


ある確かな筋から聞いた話。


一昔前にナベツネと西武の堤氏が音頭を取って、プロ野球の一リーグ制
をいいだしたことがあった。そのときのナベツネのセリフである。


「いやあ、阪神の久万というのはよくできた人物だ。一リーグの話が出
たときに、中日や横浜のオーナーはすぐに電話をいれてきた。ぜひ新し
いリーグに入れてほしいと。ところが久万は違う。東京まですっ飛んで
きたんだよ。それでどうか阪神を外さないでくれと。あんな、物事のわ
かった人物はいないな」だって。


いま上場騒ぎにゆれている阪神は、過去に二度、大きな決断をしている。


まず最初はプロ野球の創成期のこと。そもそもプロ野球の立ち上げを言
い出したのは関東では読売の正力松太郎、関西では阪急の小林一三だっ
た。小林一三といえばその頃の関西経済界ではダントツに影響力のある
人物だ。この小林氏からリーグ加盟を誘われた阪神は、一度は阪急主導
のリーグへの加盟を了承している。


ところが、ギリギリの土壇場になって、それも小林氏がアメリカに出張
している隙を狙って、巨人が主宰するリーグへと寝返った。そこにどん
な読みや計算があったのかは今となってはわからない。もちろん小林氏
は激怒した。だから阪急の創設メンバーを前に「絶対に、阪神にだけは
負けるな」と檄を飛ばしたという。おかげでその頃の阪急・阪神戦はと
ても盛り上がったらしい。


もう一度は戦後のリーグ再編期のこと。今度は毎日新聞が根回しをし、
西日本の電鉄系各社でリーグをまとめようとした。このときできたのが
パリーグの原型である。つまり阪急、南海、近鉄西鉄。ここに阪神
入ることになっていた。ところが入ると返事をしておいて、やはり最後
セリーグへ、というか巨人の元へと行ってしまった。


今から考えれば、このときの決断には先見の明があったといえるのだろ
う。これ以降、阪神巨人戦伝統の一戦ともてはやされるようになった。
いつも惜しいところまでいくのだが、最後には必ず巨人に勝てない阪神
は、勝てないが故に熱狂的なファンを抱えるようになる。


しかもセリーグでは唯一の在阪球団として、関西の野球ファンの人気を
かなり一手に集めた。逆にパリーグは関西に3球団が、西宮、難波、日
生と近いところに本拠地を構えたことも災いしてファンが分散してしま
った。


一球団あたりのファン数が少ないとあれば、テレビ放映をしても稼げる
視聴率は限られてくる。いきおいパリーグはテレビから外され、それが
人気薄に拍車をかけるという悪循環に陥っていく。関西では阪神の独り
勝ちである。


さて、いまの阪神である。


もしかしたら絶頂期を迎えているのかもしれない。何しろ一年おきの優
勝であり、観客動員数でも巨人をはるかに抜きさってしまった。こんな
ことがあっていいのかと思っていたところに、村上ファンドからの買収
騒動である。


もちろん今の阪神の首脳陣が読売の意に逆らった行動をするはずもない
のだが、今回ばかりは単なる口約束や根回しといったレベルの話ではな
く、厳然とした資本主義のルールに従った、いわば雪隠詰めにさらされ
ているわけで、さて、阪神がどう動くのか。


阪神、三度目の決断を迫られている。とても興味深い。


昨日の稽古: