太ってやせる


「臀と胴が数センチ太くなったのにやせたといわれる。
 体重は過去最高に近い」


陸上競技ハードルの為末選手の話である(毎日新聞2月7日)。これはおかしなことをと思うなかれ。この言葉には、もしかしたらこれまでの体の鍛え方を根底から覆す考え方、それでいながら極めて合理的な考え方が含まれているかもしれないのだ。


為末選手によれば

これまでの競技人生を通じて、人間の四肢はそれ自体が動くものではなく、中心である胴体に振り回されるものだという感覚が強くなった。腕や脚から生まれるエネルギーに比べ、体の中心部から生まれるエネルギーの方が圧倒的に大きいと感じたからだ。四肢は中心部で生まれたエネルギーを伝える媒体に過ぎない。
毎日新聞2月7日・朝刊「為末大のハードラー進化論」)


これって、塾長がいわれていることとまったく同じではないか。たとえば突きを出すとき。突きの始動は後ろ足で地面を踏み出すことがキッカケとなる。そこから伝えられた力が体幹部でターボチャージされ、腕に伝わる。つまり腕はあくまでも力を伝えるだけのパーツに過ぎない。腕からは力は出ないのだ。だから突き出す腕に力を入れてはいけない。むしろ腕は体からわき起こってくる力によって拳が前に投げ出されるように。といった説明をされていたと記憶する。塾長の言葉でいえば腕は『ゼロ』である。


強い突きを出そうと思えば、誠にもって逆説的な話になるが、突きを出す方の腕に力を入れてはダメなのだ。蹴りまた然りである。


為末選手によれば「人体に必要な筋肉は胴体の中心部にある」という。ということは、これは大腰筋の話ではないか。為末選手は

部位でいえば臀部、胴回り、そして肩甲骨付近。これらの筋肉がストレスなく動くために、負荷に耐えうる限り四肢を細くする。そしてその四肢を自由に動かせるよう、徹底的に中心部を鍛えることにした
(前掲、毎日新聞


彼は陸上競技、それもハードルを飛び越えるという特殊な目的があるために、こうしたトレーニング法を選んでいる。しかし、彼の考え方を空手に当てはめるなら、それも老人の域に達し始めている自分に当てはめるなら、臀部や肩甲骨を鍛えるというよりも、むしろその可動域を滑らかにするとか広げるといった方向に進むべきなのだろう。もちろん突き、蹴りを受けた時のダメージを防ぐためには、ある程度四肢にも筋肉をつけておいた方が望ましいのはいうまでもない。


もとより筋トレを否定するわけではない。が、あくまでも自分の体を自分の意のままに動かせるようにすることが目的であるとすれば、かけるべき負荷は最大で自分の体重まで。その範囲で体の中心部の筋肉、つまり大腰筋を意識して動くことを心がけるべきなのだろう。


だとすると、とりあえず体の内部の腹筋を鍛えるのはレッシュ式腹筋、肩甲骨を鍛えるのもレッシュ式腕立て伏せと、この二つはほぼはっきりとわかってきた。やり方、効かせ方、そしてまだ何となくではあるが効果も掴めるようになってきている。残る課題はやはり大腰筋である。


為末選手は片足でのスクワットや両腕で10キロぐらいのプレートをもって振り回しているらしいが、スクワットは膝にガタが来ている身としては危険だ。それよりもブルースリーがやっていた、とてもゆっくりとした動作での回し蹴りや、あるいはいっそのこと能のお稽古でもやってみるほうがいいのかもしれない(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061110/1163136434)。


いずれにしても、体の動かし方、力の出し方伝え方についての考えが、何となくまとまってきたような気がする。あとは、いかにその考え方に基づいてきちんと力を出せるようになるか。それを組み手の場で使えるようになるか。空手の場合は、ここが決定的に重要なポイントになる。



昨日のI/O

In:
『イラスト版管理職心得/大野潔』
Out:
某社広報用顧客調査設計書
某社営業データ収集用基本フォーマット

昨日の稽古:

・懸垂