スタバにて


年の頃は50過ぎだろうか


スタバの長机(6人掛けの大きな机ですね)で、たまたま前に座ったおじさま(自分だってそうだけれど)である。ノートを二冊広げている。赤、青、緑と実にカラフルな色使いで、何やら細かな文字がたくさん書き込まれている。


ノートのサイズはA4とB5。B5は開いていないので中がどうなっているのかはわからないが、A4の方はページを半分に区切って使っている。こちらの目が悪いことに加えて、字が小さくて、その上反対側から見ることになるため、何が書いてあるのかはさっぱりわからない。


ところで、この方が挙動(加えて言動も)不審なのである。外見はまったくノーマルである。大学教授といっても、もしかしたら通りそうなぐらいのダンディ系。そこはかとなくインテリジェンスも感じさせる。茶色のタートルネックをスキッと着こなし、首にはペンダント。腕時計は茶色の皮バンドで、ブランドはわからないがなかなかオシャレなデザインだ。


なのだが、とにかくひっきりなしにケータイを閉じて開いてを繰り返している。そしてケータイを見ては、ノートに何かを書き込んでいる。一連の動作が、どうも人目を意識しているように思えてならない。特にケータイを開ける時の動作など明らかにオーバーアクションである。ほら、何となくわかるでしょ、手首のスナップを利かせてケータイをふるようにして開けるわけですよ。


一体、何を見ているのか。そのケータイで見ている画面を見せてくれい、といいたくなる。いや、ものすごくいいたい。なぜなら画面を見ながらときおり突然何かうなられるのだ。「えっ」とか「う〜ん」「あらら〜」とか。気になることこの上ない。


そして彼が私の前に座っていた2時間の間に二回、電話が掛かってきた。このときの応対が妙である。別に聞き耳を立てていたわけでは決してないのだが、声が大きいので聞こえてくるのだ。それによれば一回めは「うん、誰? 番号登録していないから、キミが誰だかわからないよ。ぼく、ぼくはいま東京にいるんだけれど」なんていってる。


はぁ〜? ここは奈良の西大寺なんですけれど。この相手からは結局、最後まで名前を明かしてもらえなかったようで「キミ、一体誰なの」が最後の言葉だった。切られた後で、ふっと憂鬱そうなため息をついたのを、私は見逃さなかった。


それから20分程して二回めの電話。今度はなぜかスピーカー機能(そんなものがあるのか?)をオンにでもしていのだろうか、女性の声がこちらにまで聞こえてきた。あわててスピーカーを切った(のか、ボリュームを下げたのか)おじさまは、今度は「いま? いまは車の運転中」とのたまった。もちろん、彼も私も先ほどと同じスタバにいる。


加えて何だか知らないが「ちょっと書き留めるから、言ってくれる」なんて相手に伝えてる。クルマ運転してたら普通はメモ書いたりできないと思うんですけれど、相手の方もそうしたことには気を留められなかったようだ。


電話が終わると、また何かケータイで見ている。と思えばおもむろにペンケースからバッテリーを取り出し交換。バッテリーがなくなるまでケータイを使いたおし、さらにバッテリーを交換してまでまだケータイを見ている。


あ〜、見たい。この人がどんな画面を見ているのか、見てみたい。それとノートに書いていることを覗きたい。ものすごく覗きたい。彼のノートにはもうひとつ不思議なところがある。インデックスラベルである。ラベルがこれでもかというぐらいに貼りまくってある。ノートの横に縦に貼るだけでは足りないようで、ノートの上にも横にラベルが並んでいる。


ものすごく不思議な人である。どんな仕事をしている人なのだろう。家族はいるのだろうか。どんな部屋に暮らし、日々、何を考えて過ごしているのか。もしかしたら小説家で、新作のネタでも書き付けているのだろうか。知りたい。スタバでひと仕事片付けようと思っていたのに、この人が気になって仕事がまったく手につかない。考えなければならないテーマがあるのに、思考がちっとも集中しない。


仕方がないから、こんなブログを書いてしまった。しかし、この人、本当に何をしている人なのだろう。


と彼がとうとう立ち上がった。なんと立ち上がったときに判明したのだが、彼はチャコールグレイのスラックスのチャックをフルオープンにしていた。それは知らない間に開いちゃったというような状態ではなく、そもそもベルトから緩めていたようだ。といっても、もちろんあやしいことをしていたわけではないから誤解のないように。彼の手はずっとケータイを握り、ペンを持っていたのだから。


さらに驚きなのは、座布団代わりのスポンジまで持参していたこと。ということはこの人は、スタバ使いのプロ(そんなものがあるのだとすれば)なのかもしれない。その彼が帰っていく。よく見れば持っている傘も、オッシャレ〜である。あ〜、不思議なおじさまのおかげで、二時間、何も手につかなかった。



昨日のI/O

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