なぜロッキーはドラゴに勝てたのか


今を遡ること約30年前


衝撃的な映画を見た。たぶんテレビでだったと記憶する。ちょうど体を鍛えなきゃ、鍛えるんだゴルゴみたいに、とはりきってた頃。その映画でヒーローは、早朝目覚めるとすぐに生卵を5個コップに割り、それをそのまま飲み干した。次の日の朝さっそく真似をして(卵は2個だけにしておいたけれど)吐いた。


ロッキーである。『ロッキー・ザ・ファイナル』がいま公開されている。おかげでいまちょっとしたロッキーブームである。コンビニに行けばロッキーシリーズのDVDが並んでいる。一本1500円なり、これは安いと買って帰ると、すでにビデオで持っていたりする。テレビでも再放送がかかっている。それで最近『ロッキー4』を見た。これはDVDも持っていて、たぶん今回で20回目ぐらいだろうか。


ストーリーは大したことない(というか、むしろバカバカしいというか)し、役者の演技は下手だし、ドラゴはあまりにも非現実的だし(元極真空手で世界大会にも出たそうだけれど)と、何回見ても、まあそれなりにおもしろいけれど、というぐらいの映画だ。


ストーリー的には、思いっきりドラゴを非情、かつ非人間的敵役キャラクターに仕立て上げ、最後はロッキーがやはり超人的な強さを発揮して勝つ。それがカタルシス、というお決まりのパターンである。見所はそれほどなくて、唯一いいなあと思うのが、JB(ジェームズ・ブラウンですね)のいかにも脳天気な歌だけみたいな印象しかなかった。


ところが、今回見直してみて気づいたのがロッキーとドラゴのトレーニング法の違いである。これがおもしろいと思ったのだ。


ドラゴはロシアが持てる科学技術のすべてを使って、育てあげられたサイボーグ的戦士である。その破壊力は恐ろしく、スタミナは抜群、打たれ強さも獣並みといったところだろうか。体格にも恵まれロッキーより身長差にして20センチは高いだろう。


そのドラゴがロッキー戦のために過酷な科学的トレーニングに励む。トレーニングはすべて室内で、計器につながれたマシンを使って行なわれる。負荷はつねに計算され、おそらくは限界ギリギリのところで設定され続けるようになっているのだろう。実に合理的なトレーニングだ。


一方のロッキーは何をやったか。もちろんトレーニングである。が、マシンは一切使っていない。これはストーリー的にもマシントレーニングvsナチュラルトレーニング、科学vs精神、みたいな伏線が背景にあるからだろう。さらにはロッキーのトレーニング方法なら、やろうと思えば誰にだって真似できないことはないと思わせることで共感を引き出す狙いもあるのだろう。もちろん実際にやれるかどうかはともかくとして、少なくともそう思わせることが、ロッキーにより強くシンパシーを抱かせる仕掛けとなっているわけだ。


さすがに20回も見ていると、それぐらいのことはわかるのだが、今回見ていて新たな発見があった。それは何か。


もしかしてドラゴは負けるべくして負けたのではないか。あるいはロッキーのトレーニング方法が、戦いに勝つ上では極めて合理的だったのではないか、と。


なぜそんなことを思ったのか。二人のトレーニングの仕上げシーンを見て気がついたのだ。ドラゴは昇降マシーンにしがみついて必死にトレーニングしている。あれは以前通っていたジムでやってことがあるけれども、めっちゃきつい。まさに心臓ばくばくもんのトレーニングである。


ロッキーは雪道を走り、最後は雪山を、雪に足を取られながら上る。ここである。昇降マシーンでのトレーニングは、つねに限界の力を振り絞るように設定されている。ということは、やっているドラゴが感じる負荷はつねに一定レベルということだろう。しかも運動そのものは、同じところで同じ動きを繰り返すことになる。


これに対してロッキーのランニングは、極めてイレギュラーだ。まず雪道であり、さらには膝まで足を取られるような雪山(おそらくは凸凹だらけであろう)を駆け上って行く。当然、斜度によって速さも足取りもつねに変わらざるを得ない。すなわち極めて非連続的というか、カオスチックというか。


ということはロッキーvsドラゴの戦いは、イレギュラーなトレーニングを課してきたものvs極めてレギュラーなトレーニングをこなしてきたもの、の争いと考えられる。それならロッキーが勝って当たり前ではないか。


なぜなら実際の戦いは、イレギュラーそのものだから。


相手のある戦いというのはそういうものである。お互いが相手に勝つために、ありとあらゆる策を弄する。相手の技は、こちらからすればイレギュラーである。逆にいえば、相手の技をレギュラー化する、すなわちこちらの思うところに思うように出させることができれば、その逆を取ることができるわけだが。


そういうイレギュラーな状況への対応が勝つための条件となるとき、どんなトレーニングを積むべきかは一目瞭然。ロッキーがドラゴに勝つのは理の当然ということだったのだろう。ということをシナリオ的に訴求したかったのかどうかはわかりませんけれど。



昨日のI/O

In:
『人間と聖なるもの/ロジェ・カイヨワ
Out:
対訳君開発者インタビューメモ
廣常啓一氏インタビュー原稿

昨日の稽古: