聞き込み営業のススメ
「うちの製品は、こんなにええんです。しかも安い。どないでっしゃっろ」
「この問題が解決したらどれぐらい儲かります?」
いずれもセールス話法の一種である。前者はクロージング、後者は解決質問と呼ばれる。どちらかといえば人間関係重視、ふだんからまめに飲みにも行き、最後は押しの一手で迫って泣き落とし。「もう、しゃあないなあ、あんたの言うことやったら何とかしよ」と言わせるのが前者のタイプである。誰にでもできる営業手法ではない。だが、この手法がはまるタイプの営業マンは確実にいる。
これに比べれば解決質問は難易度が低い。営業マンの人間性に依存しないので、やろうと思えば誰でもできる(可能性はある)。しかも「売らなきゃならない」プレッシャーからも解放される。オススメである。ただし誰でもできるとはいえ、何にも努力しなくてもできるようになるわけではない。自分は一方的にしゃべるのは好きやけど、人の話をじっと聞くのはがまんならんわ、という人には向かない。
SPIN式と呼ばれる営業手法である。主に大型案件の営業に向いている手法とされ、商談を何ステップかに区切って、徹頭徹尾、質問でまとめていくやり方だ。これがハマると、質問に答えていたお客さんの方がいつの間にか「そやねん、その製品があったら、うちにはごっつメリットがあんねんや。わかったわ」となる(らしい)。
SPINとは
Situation Questions(状況質問)
Problem Questions(問題質問)
Implication Questions(示唆質問)
Need-Payoff Questions(解決質問)
の略である。
最初は状況質問でまず相手の現状を的確に把握するわけだが、ここはネットを始めいろんなメディアから情報を集められる時代である。基本的には相手の状況ぐらいは事前に把握しておいて、こっちとしては調べられる限りのことは調べてきましたという姿勢を見せるのが礼儀だろう。
次が問題質問。これは相手の現状に対する「不」を尋ねる質問である。現状に対する「不(不満・不平・不安・不良・不足・不信など)」は、基本的にすべて潜在ニーズとなり得る。だから相手の状況、競合の動向、市場の動き、相手の顧客ニーズなど要するに相手の状況をつかんだ上で、この問題質問をあらかじめ組立てておけば、潜在ニーズを引き出すことはそれほど難しくない。
問題が見えてくれば、つぎはその問題が実はどれほど深刻なのかを相手に理解させる必要がある。そのために使われるのが示唆質問である。たとえば生産ラインのあるツールの使い勝手が悪いことを問題質問で引き出すことができた。こちらが売りたいのは、まさにそのツールである。
すると、たいていの営業マンは「当社のツールなら、使い勝手の問題を解決できますよ。しかもコストは○○で済みますから」といった話をすぐにしたがる。ここでじっと我慢の子になれるかどうかが商談の成否を決める。
もちろん相手の状況次第では、ここで一気呵成のクロージングをかけることが奏功するケースもある。見極めポイントは商談の相手の決定権だ。決定権を持っている人間が、問題を的確に認識しており、しかも当社の製品に対して価値/対価バランスを考えて価値が上回っていると考えてくれている。そう確信を持てるなら押せばいい。
しかし、そうじゃない場合はどうか。押されると反発するのが普通の反応だろう。だから示唆質問を使う。こんな具合だ。
「そのツールの使い勝手が悪いとすると、ライン全体にどんな影響を与えるでしょうか」とか「その影響はライン全体の生産性にどんなマイナスをもたらすでしょうか」とか「そのマイナスはコスト換算すれば、年間どれぐらいの額に上るでしょうか」といった具合だ。
質問に答えているうちにお客さんの方が、単なるツールの使い勝手の悪さが、実はえらい損害につながっているんちゃうかと勝手に思ってくれたらしめたものである。とはいえ、そんな質問を簡単にできるものかどうか。ところがこれは案外楽勝である。要は視点の持ち方であり、自分が相手企業の経営者になったつもり、それもとびっきり心配症的ネガティブ思考になって考えればいいのだ。
そしていよいよ最後は解決質問でトドメを刺す。基本的には示唆質問を逆に追っていけばいい。
「生産ラインでのコスト削減方法を求めているんですね?」
「コスト削減ということは、時間あたりの生産性を高めればいいのでしょう?」
「生産性を高めるためには、ツールの使い勝手がかなり重要なポイントですね?」とつないでいって「じゃあ、このツールがオススメですよ」と決めればどうなるか。値引きを要求されることもまずないだろう。
営業の仕事とは「売り込み」ではなく「聞き込み」なのである。
昨日のI/O
In:
『遠い太鼓/村上春樹』
Out:
某ソフト開発物語
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昨日の稽古:
・ジョギング、懸垂、レッシュ式腹筋