本当のリーダーシップとは


組織の長の質が問われている


船場吉兆が最悪の例だろう。組織ぐるみで不正を行っていたことは、ほぼ間違いない。九州産の牛肉を但馬牛と偽り、ブロイラーを地鶏と詐称し、賞味期限をごまかす。吉兆のブランド力があれば「バカな」消費者はだまされるに違いない。おごり高ぶった心が、名門に取り返しのつかない傷をつけた。


その船場吉兆の取締役(初代から数えて三代目にあたる)は、不正が発覚したときパート従業員に対し「自分が本部の指示を無視して偽装しました」と言うよう強要したという。これを拒んだ従業員に対してこの取締役は、あろうことか「自分を守る前に、会社を守れ」とのたまったそうだ。


恐ろしいまでのこの錯誤は、一体どのようにして彼の心の中に育まれたのだろうか。


無理矢理にでもこの取締役氏の立場に身を置いて考えてみたい。彼からすれば、まず賞味期限のラベルを張り替えることぐらいが、なぜそんなに指弾を受けなければならないほどいけないことなのかが理解できていないはずだ(じゃ、なかったらやらないだろう)。より正確を期すなら「うち(すなわち吉兆のことですね)ぐらいの店がやることに、味のことも碌にわからない人たちがとやかく言うでない」ぐらいの気概(というのは正確な表現じゃないと思うけれど)は持ってるのではないか。


料理人としてみれば彼もそれなりの評価を得た人物だと言う。であるならば恐らくは吉兆で、あるいはそれ以前に丁稚奉公の修業に出された店でも、かなりな研鑽を積んできたはずだ。だから「自分は違うのだ。吉兆の一門なのだ。特別なのだ」といったおごり意識が、心のどこかにあった。その「特別」な店と、たかだかパート従業員など比べるべくもない。何があっても「吉兆」の名を守らなければならない。


そのためには組織ぐるみの不正など絶対に認められない。我々、吉兆一族の血を引く(特別な)人間が、不正などしていない言明したならば、凡人達はその言葉を信じざるを得ないはずだ。とまでいくと言い過ぎになるかもしれないが、それに近い意識はあったのだと思う。


だから、その凡人達から反逆されてオロが来た。自分たちが依ってたっていた足元が、いかに脆弱だったかを思い知らされ、まさにいま地に足がつかない状態に陥っているのだろう。こういうときに組織の長がどんな対応を取るかで、その組織の質は決まる。


吉兆が最悪のケースである。これと正反対の事例を、つい最近自らが関わる組織でまさに身を以て経験した。


私が関わっているある団体の支部長が不祥事を起こし、いったんその座を降りた。しかし、降りた後もごたごたが続いた。私が所属しているのは支部だから上部組織がある。そこに長がおられる。


本来なら一支部で起こった悶着である。あくまでもそこでケリをつけるのが真っ当な流れだ。が、どうにも残された面子では処理できないぐらい面倒なことになってきた段階で、長が出てこられた。もめ事の中身に長はまったく関わっていない。知らぬ顔をしようと思えば、それで済む話である。


しかし、長は言われた。「何かあったとき、最後に控えていて尻を拭う役をするのが長である」と。長とは決して組織の頂上に君臨し、上から物事を差配するだけの人のことではないのである。もちろん組織を動かすために誰かが方向性を決めたり、指示を出したり、あるいは人を引っ張って行くことは必要であり、そうした力を持つ人間が長となる。これは自然の理だ。


世の多くの組織の長には、こうした能力を持つ人間が選ばれていることだろう。しかし、長の長たるところはトラブルが起こったときにこそ発揮される。何もかもがうまくいっているときには、長があえて表に出ることはない。みんなが困ったとき、どうしていいかわからないとき、容易には解決のできない問題にぶつかったときこそが、本当の意味での長の出番となるのだろう。


もめ事の筋道の通った処理を付け、後に災いを残さないようにする。もめ事に関わった人間すべてが、遺恨を持たないように配慮する。こんがらがった感情の糸を解きほぐし、しかも後々の禍根の根を摘み取りつつ、さらには渦中の人物にヤケを起こさせず、自らの非を納得させる。人間力がなければできない業だ。


「長」を広辞苑で引くと「一群の中で、かしらだつ者」と記されている。本物の長が「かしらだつ」のは、こうした難題の後始末である。そういうことのできる人物が少なくなった時代を吉兆の事件は教えてくれ、そうした人物の束ねる組織に属することのできる我が身の幸運を身近な事件は感じさせてくれた。




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