四十歳からの空手2・初めての回し蹴り

atutake2008-06-14



「それじゃあ、とりあえず真似してください」

いよいよ息子の付き合いで空手の稽古を始めることになった。私たち親子がお世話になるのは空研塾という流派の奈良支部である。空研塾とは略称で、正式には空手技術研究塾というらしい。流派にとらわれずに、各流派の空手に加えて少林寺拳法、中国拳法にキックボクシングから総合系の格闘技までいろいろな技術を研究する。早い話が何でもあり、である。


なんで、そんなすごいことになっているかというと、要するに経験者、それも黒帯クラスの人たちばかりが集まって始めた流派だから。従来の一流派だけの空手では飽き足らない方たちが、より高度な空手を目指して集まっているわけだ。


すなわちそもそも初心者はお呼びでないのである。故に子どもがいないのも当たり前である。さらに聞いてみると、ここでやっているのはフルコンタクト空手だという。オーマイガァ!


空手にはいろいろな流派があるが大きく二つの系統に分類される。実際にど突き合い・蹴り合いをする系統(これをフルコンタクトという)と、いわゆる寸止めといって相手に当てる寸前で止める系統(といっても稽古では遠慮なしに当てるところもあるらしいけれど)である。


突きや蹴りを相手に直接当てる空手は極真系といい、かの大山倍達氏が戦後始めた流派に起源を持つ。極真会の伝説的な強さ及び稽古の恐ろしさはまず『空手バカ一代』というマンガで広まり、それがテレビでも放映され、さらには映画『地上最強の空手』として公開され、あるいはアントニオ猪木対「熊殺し」ウイリー・ウイリアムスの決戦などでも世の中を騒がせるようになっていた。


なぜそんなことを知っているかというと、実は大学時代の友人に、超・猪木ファンがいたゆえ、極真空手を巡る格闘技界の動きだけは知っていたのだ。学生時代は大スポの愛読者でもあったし。


ともかく私が入ることになった空研塾は、その極真会館にいた芦原英幸という猛者が起こした芦原会館の流れを色濃く持つ流派であることがわかった。まだお会いしたことはないのだが、塾長先生は芦原英幸氏の直弟子だったという。という話を稽古前に聞かされて、これは結構えらいところに来たなとびびっていたわけだ。何しろフルコンタクトである。直接ど突く、蹴る。そりゃないっしょと思ったが今さら引き下がるわけに行かない。


ともあれ稽古が始まった。


すると前におられる支部長はいきなり「では、組手立ちの基本からいきます」とかおっしゃるではないか。こちらとしては「なんですか、その組手立ちというのは」状態である。そこで言われたのが冒頭の言葉だったというわけだ。


「じゃ、ワンツーから」
(ワンツーって、それボクシング用語ちゃうん?)
「次はフックです」
(フックもボクシングやんか?)
「アッパー、いきます」
(えっと、これってほんまに空手なんですか???)
「最後は肘打ちです」
(これだけはボクシングでやったら反則やな)
あれよあれよという間に基本稽古はどんどん進んでいく。前で模範演武を見せてくれる支部長の真似をしてみるものの、ついていけない。


8年前の空研塾ではこういう稽古をしていたのだ。なぜかといえば、基本的には上級者ばっかりが集まっていたからで、今さらいちいちイロハのイみたいな基本稽古はやらないのである。そんなことは各自が家でやるべきことなのである。引き続いて足技の稽古(つまり蹴りのことですね)は、前蹴りと回し蹴りを教えてもらう。


「前蹴りはしっかりと膝を抱え込んで、中足を返してください」
(膝上がりませんけれど。それに中足って何でしょう?)
「回し蹴りは斜めに膝を抱え込んで、足をしっかりと閉じて正中線の先まで蹴り込んでください」
(やっぱり膝が上がりませんけれど。その前に片足で立っていることがむずかしいんですが)


見よう見まねで何とかついていこうとするのだが、そもそも40年間の長きに渡って、そのような体の動かし方をしたことがないのだから、そうは簡単にできるはずもない。やったことない体の動きを、初見で真似できるほど器用ではないのだ。支部長がいっている一つひとつの用語の意味はなんとなくわかる。なるほど中足とは足の指の付け根のことか、とか、膝を抱え込むとはまず膝を体に近いところで持ち上げるのだなとか。


けれども、それが文章化されテクストとなり「膝を抱え込んで閉じたまま正中線の先まで持ってきて、一気に解放してすぐさま引き戻し、残心を取ります」とかいわれると意味不明である。


さぞや、息子も苦労しているだろうと、そのときになって初めて(それまでは自分のことで精一杯で、息子を構ってやる余裕すらなかったのだ)横を見てたまげた。なんと、彼は、支部長と同じように回し蹴りを蹴っているではないか。想像するに赤ん坊の頃、オムツを替えるときに必ず股関節をぎゅっぎゅっと広げてやった効果が出ているのだろう。足はしなやかに上がり、そしてまわり、蹴っている。


「こお君、上手ですね。もしかしてお父さんが、教えたはったんですか」などと尋ねられる始末だ。そんなわけあり得ないんですけれど、といった案配で、初回の稽古は続いていった。



昨日のI/O

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