葬儀マーケティング


7年連続増加、07年度の売上高は4900億円


全国の葬儀業の売上高である。日本のマーケットは、全体的には縮小傾向に入りつつある。つい先日のエントリーでは、とうとう自動車の保有台数までが減り始めたことを書いた(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20080519/1211201889)。何しろ人口が減っていくのだから、いろいろなモノがどんどん売れなくなっていくのは仕方がないことなのだ。


そんな日本マーケットの中で数少ない成長マーケットが、葬儀関連である。

全国の葬儀業の売上高は00年の調査開始以来、7年連続で増加した。07年度は前年度比2.8%増の4900億円だった。市場規模は今後も年3%程度で増えていくとの見方が有力だ。実際、上場四社の07年度の経常利益の合計は約46億円となり、前の期を34.7%上回った(日経産業新聞2008年6月13日22面)


なぜ、葬儀関連マーケットが成長しているのか。理由は簡単で、死亡者の数が増えているからだ。単純に死亡者数がマーケットサイズを左右すると考えれば、今後少なくとも30年ぐらいは葬儀関連市場は成長を続けると予測される。


めざとい企業がこうした状況を見逃すはずはなく、2年ほど前に中国地方と九州地方のある県での市場予測を頼まれたことがある。元々の依頼主は、地方の中堅ゼネコンだった。公共工事が絞られてきているために仕事がない。そこで何か新しいビジネスを考えた先に見えたのが、葬儀業だったというわけだ。これならまず葬儀場を建てなければならないから、建築も派生する。一石二鳥というわけだ。


が、残念ながらそうした感覚で参入した企業が成功したという話は聞かない。ここに葬儀マーケットの難しさがある。ことが人の生き死にに関わることだけに、一筋縄ではいかないのだ。


なぜ、成功しないのか。ここをマーケティングの4Pに従って考えてみたい。


まずプロダクトである。これは葬儀ということになる。最近は家族葬なども行なわれ始めているようだけれど、主流はまだまだごく一般の葬儀だろう。「葬式もまともに出さないで」などと親類縁者や故人の知人から非難されて、平然としていられる人は少数派だ。とはいえ、親戚関係のあり方も変化してきているから、今後は葬式が簡素化に向う可能性はある。


そして差別化を図るのも、まずはこの葬儀であり、加えて人が死ぬことで起こってくるさまざまな手続き関連のサービスなどもありえるのかもしれない。個人的には昨年、自分が葬儀を取り仕切らなければならない立場に置かれて、えらい面倒にあった。


やるべきことがたくさんあり、そうしたことについての事前知識はなく、しかも一度に処理しなければならないのが葬儀と、死亡に関するさまざまな手続きである。シビアないい方かもしれないが、ここにはおそらくビジネスチャンスがあるのだと思う。


次がプライスである。葬儀費用については、まだまだ不明朗だというのが実際にユーザーになってみての実感だ。しかも予想以上に、追加的にさまざまな費用が必要になる。個人的に利用したのは、いわゆるベンチャー系の葬儀会社で明朗会計を謳ってはいたが、それでも最初に提示された見積りと最終的に支払った総額の間には、大きな差があった。この乖離がおそらくは不信感をもたらす最大の原因だろう。


そして、おそらくは最も難しいのがプロモーションだ。言うまでもないが、葬式が必要となるのは「誰かが死ぬ」からである。従って「うちでお葬式でやると、おトクですよ」とか「わが社の葬式は最高です」といったアピールはできない。実際問題として不可能ではないが、そんなセールストークがどんな印象を与えるかを考えれば、あえてやる企業はないだろう。


しかし、プロモーションがまったくできないかというと、そんなことはないと思う。しつこいけれども、いざ葬式だとなると、とにかく困ることは間違いないのだ。だからといってあからさまに「賢いお葬式の出し方」といったセミナーをやってもダメ。ことは極めてデリケートな問題が絡んでいる。あくまでもさりげなく、まず葬式を出す場所を知ってもらう、来てもらうようなプロモーションが良いのだろう。


そういう意味では公益社が展開しているイベント型の「公益社博覧会」は注目に値する。この公益社の取組みは日経MJ新聞でも取り上げられていたが(日経MJ新聞2008年5月23日付11面)、葬儀がどんな場所で、どんなふうに行われているのかを、自分が取り仕切る立場で知っておきたいと考える人は少なくないだろうから、以外にうまくいくかもしれない。


最後にプレースが残る。これは従来は病院との癒着問題が指摘されていた。自分自身の経験としても、病院から「業者を紹介するから、早く引き取ってくれ」と言われてあぜんとした。が、これも新しいルートがないわけではないと思う。高齢者向けのSNSなどでは、自分の死や葬儀、死後の家族について考えるようなコミュニティもあるはずだ。そうしたところで真摯な提案をすれば、受け入れられる可能性はあるだろう。


いずれにしても、人の死あるいは葬儀についての捉え方、考え方もこの先10年ぐらいでずいぶんと変わるのではないだろうか。そうした変化を見越した上で、変化を少し後押しするようなマーケティングを展開する企業があれば、成功する確率は高いように思う。




昨日のI/O

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シナジーマーケティング谷井社長インタビューメモ


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