トップインタビューの読み方
前年対比１万人減少
フィットネス業界最大手コナミスポーツの08年3月期末の会員数は、約98万人となった。前年を下回るのは３年ぶりのことらしい（日経MJ新聞2008年6月16日3面）。
トップインタビューで、コナミスポーツ＆ライフ社の大石社長が答えている。
50代以上の男性が増えた一方で、ボリュームゾーンである20，30代女性の落ち込みが響きました。若い人たちのお金や時間の使い方が多様化していることが背景にあると思います（前掲紙）。
このインタビューは、なかなか興味深い。なぜかといえば、ざっと読んだだけでいくつかの矛盾が見受けられることが一つ、さらに背景には業界ナンバーワンのコナミでさえも、黒船の攻勢にやられている状況が浮かび上がってくるからだ。
まず矛盾について。大石社長は、日本のフィットネス参加人口が３％に留まっており、アメリカではその３倍以上の参加人口となっていることから、成長の余地はありと述べている。にもかかわらず、記事の後半部分で「今後はフィットネスクラブ事業だけで成長を続けるのは難しい」とも述べている。
もちろん、これだけを持って明らかな矛盾だなどと言い切ることはできない。むしろ興味深いのは、日米のフィットネス参加人口率比較についてのコメントの方である。これまでにも書いてきたように、個人的な経験として、過去に数年に渡ってあるフィットネスチェーンのマーケティング企画に関わったことがある。
マーケティング企画を考えるのだから、当然、市場動向についてはあの手この手で調べることになる。そこで興味深いというのは、市場について調べ始めた７年ぐらい前からずっと、日本のフィットネス参加率は３％に留まっていること。つまり、変化していないのだ。だからこそ大石社長は成長の余地は数字的にはあるけれども、限界があることを感じていて、それがインタビューのことばとして出たんだろうなと思う次第だ。
なぜか、日本のフィットネス人口は３％の壁を越えることができないのだ。しかし、状況はおそらく変わりつつあると思う。そして大石社長もその変化を認識しているからこそ、よりフィットネスクラブ事業での成長の難しさを実感されているのではないだろうか。
変化を引き起こしているのは、アメリカからやってきたフィットネス業界の黒船『カーブス』である。女性だけの、30分間コンビニフィットネスをセールスポイントに２年前に日本に上陸したカーブスは、昨年11月の時点ですでに日本で600店舗のチェーンを持つに至った。
わずか２年で600店舗である。コナミが展開するエグザスが2008年3月31日現在で209店舗、カーブスはすでに３倍である。しかも成長は留まるところを知らず、今後３年で2000店舗を目指している。カーブスの会員数データは16万人である（→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20071221/1198217656)。もし、このままのペースでカーブスが2000店舗となったときには、会員数はざっと50万人となる。コナミスポーツの半分にまで迫ってくることになる。
おもしろいことにカーブスでは会員の７割が40歳以上らしい（同社ホームページより）。ということは、コナミスポーツとは今のところ顧客層でバッティングはしていないことになる。つまり、もしかしたらカーブスが獲得する会員分だけ、フィットネス参加人口３％が増えている可能性もあるわけだ。
そうした状況も大石社長は先刻ご承知のはずである。そしてだからこそ状況は深刻なのだ。つまりコナミで会員離脱が起こっているのはF１層である。もし、それが本当なら、すでにF２層ではカーブスの独り勝ちとなっているわけだから、今後、女性マーケットで総負けする可能性があることになる。
イニシャルとランニングコストで大きな比重を占めるプールやお風呂などの設備を持たないカーブスと、大半の施設でプールを抱えるコナミでは、今後の燃料費高騰が経営面でどういう影響を与えるかも明らかである。燃料費高騰は間違いなく収益を圧迫し、だからといって会費を上げるとカーブスの価格優位性がさらに際だつことになる。
非常に厳しくジレンマに陥った状況が読めるインタビュー記事だと思った。だからタイトルは「健康管理、物販でも稼ぐ」となっていたのだろう。
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