四十歳からの空手3・金的痛い


「いっぺん、土曜日の稽古にも来てくださいよ」


ある木曜日、支部長からお誘いいただいた。お誘いの言葉はあくまでもかる〜いソフトタッチだった。木曜日の稽古は西部生涯スポーツセンターで行われているが、土曜日は奈良市中央体育館の敷地内にある武道場でやっているのだという。そして土曜日の稽古には、ときどき塾長が来られて、指導されるそうだ。塾長が指導されるなら、行かなあかんやろと素直に思った。


基本的に、根がまじめなタイプである。息子の付き合いとはいえ、始めたからにはちゃんとやりたいと思っていたのである。だから、まずは基本をちゃんと覚えることだとばかりに、空手関係の本を何冊か買って来て、そこに書かれている通りに基本稽古を家でやるようになった。


もっとも参考になったのは『山崎照朝の実戦空手』だ(→ http://www.kuken.sakura.ne.jp/yamazakiterutomo.html)。極真会館初代全日本チャンピオン山崎氏が、極真流の稽古のやり方をきめ細かく解説していて、初心者にはとてもわかりやすい。何より稽古回数も目安が示されているのがありがたかった。


だからたとえば基本の三戦立ちでの正拳中段突きなら、書かれている通りに左右30本やり(左右両方をやって1本と数えていました)、続いて上段に、あご撃ちに、裏拳にといった案配で、たぶん基本の突きだけで30分ぐらいぶっ通しで稽古した。稽古場は家の2階の一室である。4畳半の狭い部屋ではあるが、床は道場と同じフローリング、本棚をおいているだけでがらんと空いている部屋があったのだ。


この部屋で雨戸を締め切り(すると窓ガラスに自分の姿が映って見える)、汗をぶりぶりにかきながら1時間半ぐらいひたすら基本稽古をやった。時には息子を付き合わせることもあった(彼が付き合ってくれるのは20分ぐらいが限度だった)。


何しろ最初がゼロ(というか、生まれて40年間、人と殴り合いのケンカなど一度もしたことがないという意味では、マイナスと言った方が適切だ)からのスタートである。道場で週に1回、家で多いときには週に3回ぐらい稽古したこともあって、基本だけは何とかサマになるようになった。


そんなタイミングを見計らったように声をかけてもらったのだから、これは行かねばなるまい、塾長にもお目にかかってあいさつせねばなるまいと考えた。そして土曜日の稽古に初めて行ったのだ。


まず場所の趣が木曜日とはまったく違った。木曜日の稽古が行われているのは奈良市西部生涯スポーツセンターである。比較的最近建てられたプール、ジム、体育館に運動室を備えた明るい施設である。一方、中央体育館の武道場は、かなり年季の入った建物である。床だってギシギシ鳴っている。心なしか照明も暗い。ちょっと恐ろしげである。


集まって稽古している人たちの雰囲気も、木曜日とは微妙に違う。気のせいか、少し殺伐としている。実際にはほとんど同じメンバーが集まっているのだけれど、何かがちょっと違うのだ。


行ってまず驚いたのが、延々と組手をしている人たちがいたこと。息子と私が稽古の始まる20分ぐらい前に着くと、その二人はすでに組手をしていて、稽古が始まるまでずっと組手をしていた。最低20分は組手を続けていたことになる。


やがて塾長が来られた。なんか、とってもおっかなそうな先輩も一緒だった。その恐ろしげな先輩はキックボクシングのトランクスを身につけていて、上級者の方たちといきなり組手を始められた。えっと、木曜日の時とは皆さん、突きも蹴りもかなり本気度が違うような気がした。パンチも蹴りも振り切っているように見えた。


さすがに幼稚園児と初老の初心者は、そんな集団に混ざって稽古させられることもなく、剣道有段者の女性と一緒に塾長の指導を受けることになった。「では、基本から」ということになって、構えた(つもりになった)瞬間に、塾長は「その構えではあかんな」と言いながら、いきなり金的を蹴ってこられた。


「えっ!」と驚くと同時に、痛みが急所を遅い、続いて下腹部がいや〜な鈍い重さに襲われた(男性ならおわかりいただけますね)。


何があかんかといえば、基本の立ち方がなってないのである。すなわち金的という男性にとっての急所ががら空きになっていることが招くリスクを、身を以て学べという教えだったのである。木曜日のソフトタッチな稽古とは、まったく違うのである。これが塾長稽古なのである。


そのあとも、腕を掴まれたらこうする(といって関節を決められてひっくり返された)とか、相手が殴り掛かってきたらこう対処する(といって腕をとられたかと思うや否や、頭を押さえつけられてまた転がされた)といった極めて実践的かつ痛い稽古をつけてもらった。


正直、びびった。


そして、当たり前のことではあるが、空手の稽古は痛い(こともある)ことがわかった。




昨日のI/O

In:
Out:
アシックス三村氏取材原稿
夢の街創造委員会中村社長インタビューメモ


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昨日の稽古:西部生涯スポーツセンターダンススタジオ

・スパーリング(突きのみ顔面あり・キックルール)
・基本稽古
・スパーリング(突きのみ顔面あり)

昨日の稽古では、私の顔面の稽古のために、わざわざ大阪から先輩が来てくださった。そしてほぼ1時間、みっちりスパーリングで稽古をつけてくださった。あまりの下手さに呆れられたかもしれない。それこそ先輩からすれば、本気の10分の1ぐらいのスピードの突きであるにもかかわらず、ポコポコもらってしまった。
が、こちらとしては、ものすごく勉強になりました。いくつか貴重なアドバイスもいただいた。愛甲先輩、そして塾長、本当にありがとうございました。