北京の敵は砂


10グラムで265キロカロリー


シューズが軽ければ、走る時のエネルギー消費が少なくなる。だから軽ければ軽いほど、特に長距離を走るマラソンなどでは有利になる。いま、マラソンシューズについては、日本のアシックスがダントツの世界一だ。なぜならアシックスには魔法の靴職人・三村仁司氏がいるから。


「世界のミムラ」と異名をとるシューズ職人三村氏は、古くは君原選手の靴を手がけ、歴代マラソン代表選手のシューズを数多く作ってきた。前回のアテネオリンピック、女子マラソンで優勝した野口みずき選手がゴールした後、靴にキスしていたシーンを覚えている人も多いだろう。彼女の靴も三村氏が作ったもの。前々回にシドニー高橋尚子選手がはいたシューズも三村作である。


一体,靴の重さがマラソンにどれぐらいの影響を与えるのか。

ロサンゼルスオリンピックの男子マラソンを例にとってみよう。瀬古利彦のシューズは片足190グラム、宗兄弟のシューズは片足140グラムだった。ということは、消費エネルギーの差は(190ー140)×265で1325キロカロリー。宗兄弟は瀬古に比べて走る前からこれだけのエネルギーを得しているというわけなのである。
ちなみにフルマラソンに必要なエネルギー量は6000〜7500キロカロリーと言われている。シューズの重さのちがいだけで、その20パーセント前後を得すると考えれば、軽量化がどれだけ重要かおわかりだろう(三村仁司、『金メダルシューズのつくり方』情報センター出版局、2002年、117P)。


だから、これまでマラソンシューズではひたすら軽量化が求められてきたのだ。もちろん選手の走り方、体つき(高橋尚子選手などは右足と左足の長さがかなり違うらしい)、そして現地の路面状況などによって微調整が加えられる。そこに「世界のミムラ」の腕が発揮されることになる。


では、今度の北京オリンピックはどんなシューズになるのだろうか。


北京の敵は二つあると言われている。路面と大気だ。路面についてはいろんなところで書かれているように、とにかく硬い。一説によると天安門広場前の大通りなどは、いざというときにジェット機が離着陸しても大丈夫な仕様になっているという。そのための道の硬さにどれぐらいのレベルが必要なのかはわからないが、道の広さ、長さは確かにジェット機の滑走路としては十分だと思った。それぐらいバカでかいのだ。


あるいは天安門事件のときにはあそこに戦車が入ってもいる。が、うろ覚えの記憶でも,道は戦車によってガタガタに崩されていた、といったことはなかったように思う。というぐらいにガチガチに硬い路面は当然、走りに影響を与えるだろう。まったくの素人考えでは、軽やかに飛ぶように走る野口選手により悪影響が出るような気がする(そうならないことをひたすら祈るし、三村さんの靴が魔法を発揮してくれると信じてもいる)。


もう一つの敵も、かなり厄介だ。とりあえず北京の大気は汚れている。これは間違いない。何しろ片側3車線の道をクルマがびっしりと埋め尽くしていてにっちもさっちもいかないぐらいに混んでいるのだ。そこを走っているクルマも、日本では整備不良とされるようなモノも多い。早い話が真っ黒な煙を思いっきり吐き出しながら走っている。当然、大気汚染となる。


今では操業ストップとなっているらしいが、北京近郊にある工場からの排気ガスもなかなかである。そして、そもそも北京自体がとても乾燥した街なのだ。一日、外をうろうろすれば確実に鼻の穴は真っ黒になる。ノドがいがいがする。ホコリというか微妙な砂というか。


この砂が北京では意外な強敵になる可能性があるらしい。そしてシューズにも影響を与えるという。


そもそも靴を軽くするためには、素材をいかに軽くするかがポイントになる。素材にはもう一つ、重要な機能性が求められる。通気性だ。通気性がないと靴の中で発生した熱が行き場を失い、マメができる。マメは走りの大敵である。


だから靴を軽くしながら通気性を高めることが、これまでのマラソンシューズでは最重要課題となってきた。しかし、北京ではあまり通気性を良くしてしまうと、大気中の微粒砂が靴の中に入り込んでしまう恐れがある。砂が入ってしまうと、これもマメの原因となる危険性がある。


だから、北京でのマラソンシューズは軽さと通気性と、さらに砂の侵入防止と、この三つの機能性をいかに高次元でバランスさせるかが、靴職人・三村さんの腕の見せ所となっているわけだ。少し前に取材に伺った時、すでに野口さんの靴はでき上がっていた。そこから試走を経て、さらなる改良が加えられていることだろう。


その北京オリンピック、女子マラソンは8月17日に予定されている。野口みずきさんが一等賞で帰ってくること、彼女が再びマラソンシューズにキスすることを心から期待する。





昨日のI/O

In:
Out:
デジタルハーツ社インタビューメモ

メルマガ最新号よりのマーケティングヒント

「セーフティ・ファースト」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
よろしければ、こちらも。

□InsightNow最新エントリー
「魚の目で見るガソリン高」
http://www.insightnow.jp/article/1786

昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター・ダンススタジオ

※首を痛めてしまい、稽古できず。昔はできたトレーニングで身体を痛めてしまうと、つくづく老いを感じます。