四十歳からの空手17・最初で最後の試合


「そろそろ、試合にでてみましょうか」


またまた、いきなりな支部長のお言葉である。空手を始めて、ちょうど一年が経ち、初めての審査を受けて何とか黄帯をいただいた。我が身を自ら叩きまくり、柔軟体操にも励み、そして砂袋をがんがん殴ったおかげで少しは体もできてきた。体がそれなりに固まってくると、組手をして相手から当てられてもそんなに痛くないのだな、などと錯覚しかけていた矢先に、ある先輩から前蹴りをたたき込まれたわけだ。


見事に蹴りが鳩尾にはいった痛みに背中を伸ばすこともできない状態になりながら、それでも「そりゃ、そうだろ」と自分に妙に納得してもいたのだ。ちょっとぐらい体が強くなり(あくまでも以前の自分と比べてという限定付きで)、あるいは少しばかり空手の技を覚えたといっても、まだわずかに一年である。しかも、始めたのが40歳からなのだ。高校生の頃から稽古して、すでに稽古歴十何年という先輩からすれば、赤子の手を捻るようなものである。


といったことを、先日の○盛さんとの組手でいやというほど思い知らされた。自分でも気付かない間に調子の乗ってたんやなあと反省することしきり。そこでこの先どんな稽古をしたらええんやろとか、自分にとって空手ってなんやろ、みたいなことを考え始めた、ちょうどそのタイミングでの支部長からのお誘いだったのだ。


直接伺ったわけではないが、支部長なりにこちらの様子を見ていてくださったのだと思う。迷いがあるようなので何かのキッカケになればと、試合を薦めてもらったのだろう。


ところで、この頃は私に続くお父さん入門者が何人かおられた。うちの息子が通っている幼稚園仲間のお父さん方である。息子が空手を始めたことを聞きつけ、同じ幼稚園から何人かの子どもが入門していた。そして、我が家と同じく、そのお父さんたちも稽古に付き合っていたのだ。


私は、以前にも書いたように40歳になるまで人と殴り合いのケンカなど一度もしたことがない人間である。正確にいうと殴られたことは何回かあるが、それはあくまでも一方的なものであり、自分から相手に向かっていったことなど、それまでの人生では経験したことのないハト派人間なのだ。ある意味「へたれ」な生き様を送ってきたともいえるわけで、そんな自分が空手の試合に出ている姿なぞ、どう考えてもまったくリアリティに欠けるイメージでしかなかった。


しかし、まわりのお父さんたちは、なぜか皆さんヤル気なのである。そして、お父さん組では一番最初に入門した私を見て「当然、出ますよね」光線を送ってこられるのだ。いつしか何となく行きがかり上「私は、ちょっとやめときますわ」とはいえない雰囲気ができ上がっていた。


少し考えた末にたどり着いたのが「まあ、ええわ。試合という目標を立てて、それに向かって稽古してみたら、何か新しいものが見えるかもしれん」と、これまた極めてイージーゴーイングな結論である。そして、試合用の稽古が始まった。


道場での稽古はミットを使ったスタミナ稽古が中心になる。つまり試合時間の間、休むことなく攻め続ける体力を養うための稽古である。最低限、この体力がないと集中力が続かない。集中が切れると攻めだけではなく、受けることも疎かになるわけだ。1分あるいは2分を1セットとして、突き蹴りにコンビネーションなどさまざまな稽古を先輩方から付けてもらった。


そして組手も、もちろんある。これまでより少しきつめで、時には突きだけや蹴りだけなどといった形で技を限定しての組手にも取り組んだ。家ではせっせと走った。スタミナ=走ることだと極めてシンプルに考えていたので、週3回を目標に近所を走り回った。


そして、いよいよ試合を迎えてぶったまげた。おそらく相手は私よりいくつか年下の方だったと思うが、そりゃ、もう、本当にびっくりした。何に驚いたかと言えば、相手の剣幕にである。ほとんど、こちらのことを親の敵か、といった勢いで殴り・蹴りにくるのだ。おぉ〜、試合とはこういうものかと試合場に立ってみて初めて肌で感じた私は、すでにその時点で明らかな気迫負けをしていたことになる。


ただ、これまた意外だったのが、そうやって相手が、まるで内にこもった怒りを叩き付けるかのように向かってくる姿に刺激されて、こちらも心の奥のどこかにポッと火が点いたような気持ちになったこと。一丁前に、戦おうなどと思ってしまったわけだ。とはいえ最初は相手が一方的に来ているわけで、その激しさには敵うべくもなく、これはいかんという危機感が却って頭に血が上ることを抑えてくれたようだ。


だから、結果的には致命的なダメージは口を一発殴られただけで終わった。もちろん顔面殴打は反則だけれど、流れの中でのことだから仕方がない。そして本戦引き分け、延長も引き分けとなり体重判定で私の負け、という結果に終わった。やれやれである。


ただ、ほとんど全身をハリネズミのように集中させて、相手と向かい合う緊張感を経験したことは、自分にとってとても貴重な体験となった。



昨日のI/O

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