なぜ石井慧は柔道をやめたのか


練習の虫
ウエイトトレーニングは寝る間を惜しむほど
泣いて「練習させてくれ」と懇願する


wikipedeiaに紹介されている石井慧選手の記事の中の言葉だ。彼はまた読書家でもあるらしく、いちばんの愛読書は海音寺潮五郎の『天と地と』だという。テレビではいろんな放言癖で取り上げられているが、一説によると、彼の場合はすべて計算尽くであったりサービス精神旺盛であるがための発言だったりするようだ。決しておバカなのではなく瞬間的に考えているのだろう。インテリジェンスのある人なのだと思う。


かと思えば「天皇陛下の前で嘘は言えないから、ロンドンはめざしませんと言った」とも。実は、ものすごく素直でまっすぐな人でもあるはずだ。


さて、ここから先は、勝手な妄想である。


石井選手が柔道を辞めたのは、あまりにも今の柔道が柔道本来の姿から外れてしまったからじゃないんだろうか。ちょっとうろ覚えだけれど、確かオリンピックの選考試合で「一本取ろうが、ポイントで勝とうが勝ちは勝ち」みたいなことを言ってたはず。だから、とにかく負けることが何より嫌いな人なのだと推察する。


そしてオリンピックでは見事に優勝した。つまり今の柔道の世界では世界でイチバン強い男になったわけだ。が、その柔道に納得していない可能性高いと見る。


今の柔道は見ていてほとんどおもしろくない。というか、正直なところよくわからない。襟のつかみ合い、切り合いに終始していて、指導が出されて負け。谷亮子さんの試合なんかが典型的だったんじゃないだろうか。


それはおそらく、襟の取り合い一つとっても高度な技術の応酬があるのだとは思う。柔道なんてまったくの素人故に、そのハイレベルな駆け引きが見て取れないだけなのだろう。だが、それが柔道の進化した理想型なんだろうか。講道館師範嘉納治五郎先生が始められた柔道とは、どうも違うような気がしてならない。


ことは空手にも当てはまるような気がする。何を言いたいのかというと『ルールが格闘技の本質を劣化させる」のだ。


本来の空手がどんなものであったかは詳しく知らない。けれども、現時点で空手の流派がそれこそ百花繚乱状態であることはよく知っている。その流れを作ったのは極真空手創始者、故・大山倍達氏だ。


それまでの空手は寸止めであった。一撃必殺を目標とするのが空手である。であるなら、一撃で相手にひん死のダメージを負わせかねない拳や蹴りを直接叩き込むのはまずい。その通りである。だから試合では寸止めが大原則となった。


ところがこのルールに大山氏は異を唱える。本当の強さを証明するなら、拳を直接相手に当ててこそ空手ではないのかと。当然、当時の空手界からまったくの異端児扱いされることになるのだが、それでも大山氏は日本大会、世界大会を開催し、着実に極真空手を大きくしていった。


そしていわゆる極真流フルコンルールが、新しい空手を作り出した。すなわち直接拳を当てあうといっても顔面は御法度である。あるいは金的を蹴るのもなしだ。というルールが定着し、試合での戦い方が以前とはまた変わった。たとえば間合いがまったく変わってしまった。


このようにルールがある限り、そしてルールに基づいた試合で勝とうとする限り、かならずルールに技が規定されることになる。ちなみに顔面なしでは護身術にもならないのではないか、というのが我が空研塾のモットーである。それゆえ、黒帯をとるための昇段審査では顔面ありの組み手に耐えなければならない。


ちょっと話がそれた。


石井選手はたぶん、ルールにがんじがらめにされてしまった今の柔道に愛想が尽きたのだと思う。だから柔道と比べてよりルールの制約の少ない総合格闘技をめざしたのだろう。彼の心の中にあるのは「強くなりたい」という純粋で強烈な思いだけではないのだろうか。


過去に柔道から総合格闘技に転身した先輩たちは、その若さ・強さの全盛期にではなく、柔道では下り坂に差し掛かった時点で新たな道を選んだ。だからあえて石井選手は、これからまだまだどんどん強くなる可能性を秘めた若さでの転身を決意したのだと思う。


その本心は、本人が言っているように本気で「65億人の中でイチバン強い奴になりたい」ことにあるのだろう。怪我をして稽古を止められたときに泣いてまで「練習させてくれ」という男がこの先、どれだけ強くなるのか。どんな武道家となるのか、とても楽しみだ。




昨日のI/O

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湯元健一氏インタビュー記事
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