一冊の本が生まれるまで・その3


顧客を動かす!インタビュー式営業術

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原稿はなかなかまとまらなかった


何とかゼロ稿まではたどり着いた。が、文字数が足りない。さて、どうするか。悩んでいても仕方がないので、できた原稿をとりあえず編集者・大越さんに見てもらった。


返ってきたのは意外なメールだった。


何が意外だったのか。これまでなら原稿を書いて送る(送り先は代理店の営業スタッフやディレクター、あるいは直クライアントがほどんど)と、その返答は「受けとりました」もしくは「訂正があります」からひどい場合は「書き直し」となる。


ただし何もレスポンスがない場合も半分ぐらいある。これは一応書いた原稿がそれなりにOKだったというわけで、まあ問題ないわけだ。とはいえ特に「おもしろい」とか「役に立つ」といったメールを返してもらうことはまずなかった。冷静に考えれば、対価をいただいて原稿を書いているわけだから、価値があって当たり前。できて当然のことを一々「よくできました」などと言ってもらう方が、意識が低いということだと理解している。


けれど、誉められるとうれしいのも人情である。大越さんからのメールにはほめ言葉が記されていた。以降、彼とやり取りしたメールはすべて、まずこちらのモチベーションを高めるようなことばから始まっていた。他の編集者がどうなのかは知らないが、初めて本を書くことにチャレンジしている身としては、メールの言葉にどれだけ勇気づけられたことか。


そして、大越さんはゼロ稿をきっちりと読み込み、的確なアドバイスをしてくれた。たとえばもっとコラムを付けてみてはどうか、自分自身の経験を盛り込んでみてはどうか。遊びの要素があってもいいのではないか、この部分にはもう少し具体的な事例があったほうがわかりやすい等々。なるほど、編集者に関わってもらえるメリットは、こうやって自分以外の目で原稿を見てもらえることなのだ。しかも、ほめておだててやる気を高めてももらえる。ありがたい限りである。


これで勇気百倍となった。そしてゼロ稿をベースに、もう一度一から書き直していった。無理矢理にでも一度、ゼロ稿を自分の頭の中らテキストとして外に出してしまうと、自分が考えていたことを少しは客観的に見つめ直すことができる。独りよがりな部分、説明が足りないところ、論理が飛躍している流れなどがよく見えてくる。


書き直しをしながら、よくこんな程度の低いゼロ稿をほめてくれたものだと、大越さんの度量の広さにつくづく感謝した。そして、次に上げる原稿は、もっともっと完成度を上げようとがんばった。締切りまでの時間はとてもタイト。これが一流作家なら出版社に缶詰にしてもらったりするのかもしれないが、こちらはその間に二回の「新幹線詰め」を敢行した。


締切りまでの一週間あまりの間に東京での取材仕事が二件、入っていたのだ。以前にも書いたけれど新幹線の中は意外に集中できる書斎空間となる。自分が書いた文章を書き直していくのだから、資料をまわりに広げる必要もない。ゼロ稿と書き直し原稿をエディターで並べて開いておき(iBookの12インチモニターでもそれぐらいはじゅうぶんにできる)、さらに思いつきのメモをその下に開いておく。あとは頭の中に残っているものを頼りに書いていった。


野口悠紀雄先生は『「超」文章法』の中で「百回でも推敲する」と一章を設けているぐらいに推敲の重要性を説いている。少し書いては最初から見直し、また続きを書く。そんなやり方で書き直していった。


そして何とか締切りぎりぎりに間に合わせた。


続いてゲラ校正である。校正そのものは数え切れないぐらいやってきたけれど、ゲラ校正なんてえらそげなものは初体験だ。しかも、これを大越さんは『著者校正』と呼んだ。とうとう著者の一歩手前まで来たわけだ。その後、まだ何度か修正のやり取りがあり、同時進行で表紙デザインが上がってきた。


表紙については大越さんが何回かデザイナーとやり取りして、最終的に今のものに落ち着いた。つまり、この本は編集者・大越さんがいろんなところでバックアップしてくれたからこそでき上がった一冊ともいえる。そもそも、最初にメールをもらわなかったら、これが世の中に出ることもなかった。そして大越さんが編集者じゃなかったら、この出来上がりともなっていなかった。


謝辞にも書かせてもらいましたが、大越さん、本当にありがとうございました。



昨日のI/O

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『やった。/坂本逹』
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Out:
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昨日の稽古: