鳩山首相の功


もし、普天間問題が自民党案通りに動いていれば、どうなったか


普天間基地問題に関してマスコミは、依然として迷走状況であるとか、5月末までに決着がつかない場合は、鳩山首相は退陣すべきだとの論陣を張っている。一連の動きを表面上だけ見ていると、すべて鳩山首相に責任があるかのような印象を受けることは確かだろう。


しかし、ここは一つ、あえて別の見方をしてみたい。


仮に鳩山首相が、就任後の早い時点で「首相となって真っ先に、さまざまな可能性を検討した結果、オバマ大統領との約束を守るためにも、自民党時代に決まったいた案に従ってやるしかない」とでも宣言していれば、どうなったか。


社民党国民新党は猛反発しただろう。民主党に期待した沖縄の人たちも落胆したに違いない。しかし、名護市市長、沖縄県知事は現行案やむなしとの立場を表明していたのだから、今ほどの騒ぎとはなっていなかったはずだ。


であれば普天間基地問題を、マスコミが半年以上にわたって執拗に取り上げることもなかったと思う。すると、国民の多くは「沖縄には普天間基地があって問題となっている」ぐらいの認識を持ったかもしれないが、それ以上に当事者意識を感じなかったのではないか。辺野古とかキャンプシュワブといわれても「それ、どこ?」ぐらいにしか思わない人が、圧倒的多数派だったのではないか。


最終的な解決策がどうなるのかについては、まだ見えない。いろいろな人が、それぞれの立場から、さまざまな意見を述べているのが現状だ。マスコミは、これ幸いとばかりに鳩山首相叩きに徹しているように見える。しかし、マスコミが「では、こういう案が解決策としてあるではないか」と代案を出したかというと、それはないのではないか。


全紙のすべての社説を読んだわけではもちろんないが、少なくとも筆者の知る限りでは、マスコミから代案が提示された記憶はない。これはおそらく、マスコミが簡単に代案を出せるような代物ではないからだろう。


そもそも現行案を否定するとどうなるのかぐらいのことは、鳩山首相にはわかっていたはずだ。混乱することをわかっていながら、それでもあえて、現行案を拒否した首相の真意は何か。これはあくまでも筆者の推測であることを断っておく。


首相は、普天間問題を日本国民全体の問題として認識すること、その解決策についてみんなで考えること、を意図したのではないか。沖縄の市街地のど真ん中に米軍基地があること、それにより苦しんでいる人たちがいることを、広く知らしめようとしたのではないか。さらに突っ込むなら、根本的な問題は、辺野古に移転するだけでは解決しないことを訴えたかったのではないか。


徳之島を持ち出したことにより、さらにはいま一部で出ている九州各地の自衛隊飛行場で訓練する案を出してきたことで、空港を持つ都道府県は基本的にすべて移転先対象となり得ることが知らしめられた。まさに沖縄の問題は、日本全体の問題なのだ。そして、いまは幸いにして米軍基地がなくても、今後はどうなるかわからないと気づかせた。


この気づきを共有する人は、いずれ日本に米軍が駐在することの意味を考えるようになるだろう。さらに深読みするなら、なぜ米軍が日本に必要なのか、仮に日本に米軍がいない状態を実現するためには、何がどうなっていればいいのかを考える人も今後、出てくるかもしれない。


そういうムーブメントの起点づくりを鳩山首相は意図したのではないのか。ふと、そんなことを思った。同時にマスコミは、なぜそうした視点をまったく持たないのかと疑問に思った。



昨日のI/O

In:
『日本語の作法』多田道太郎
Out:
S社事業報告書原稿

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