絶望的なカキフライ



カキフライが好きだ。


愛していると言っても過言ではない。だから1年のうちで「R」の付く月は、なんとなく頬が緩んでしまう。今日のお昼ごはんは何にしようか、と考えると、まず頭に浮かぶのが「牡蠣フライ定食」である。


それほど好きなカキフライのことを、一昨日の日記に書いた。その日も近くのグリルでお昼にカキフライ定食を食べたのだ。もちろん大好きなカキである。美味しい。あえて注文をつけるなら、タルタルソースにいささか大味なところがあるのが残念ではあるが、まず問題はない。


で、その日記に「シーズン中に『亜樹(亜季ではありませんでした)』に行きたい。何度も行きたい。何度行けるだろう」などと書いてしまった。これぞ、言霊の力である。今日、新潟から飛行機に乗って帰ってきて、バスで京都駅に着いたのが、お昼の1時頃。


さて、お昼は何をたべるべきか。そう考えた瞬間に頭に浮かんだのが「亜樹」さんである。確か土曜日ならお店は開けているはず。しかも今から行けば、着くのは1時半ぐらい。ということは並ばずとも入れるのではないか。と思った瞬間に居ても立ってもいられなくなった。


地下鉄に乗り四条で降りる。前方のエスカレーターは混んでいるから、後ろから出る。そこですぐに地上には出ずに、地下を歩く。四条通の出口で表に出ると、意外に日差しが強い。ままよとリュックを担いで歩く。店は、見えた。誰か並んでいるか。誰も居ないようだ。


ブラヴォー! いつもの古ぼけた扉を開ける。ラッキィー! 一つだけ席が空いていた。カキフライ定食を頼む。待つことしばし、マスターが「1番さんのカキフライ、行きます」と言った瞬間生つばが出た。


目の前に置かれた丸いお皿に、フライになったカキさんが6個。タルタルソースがみごとにからみあっている。ここのパン粉は油であげると、少し黒っぽく仕上がる。これがうまさの秘密その1じゃないかと睨んでいるのだ。要するにパン粉が、カキの旨味をしっかりと閉じ込めるのである。


うまさの秘密その2は、油である。「亜樹」さんはカキフライの専門店ではない。むしろ「R」の付かない月は(正確には9月に頼んだときも「まだ、カキの季節ではございません」と言われた記憶がある)町の普通の洋食屋さんである。それはそれでハンバーグもエビフライもピカタもなんでもうまい。それは油の加減が絶妙であり、火の入れ方が完璧だからだ。


その油でカキに熱を加える。タイマーで計っているわけではないが、カキのうま味がみごとに活性化された火の加え方である。大振りなカキが6個、最後の一つを食べても、ホクホクと温かい。


うまさの秘密その3は、言うまでもなくタルタルソースである。「亜樹」さんのは滑らかである。ほんの少し酸味が効いているようにも感じる。決して濃厚ではない。なぜなら、このタルタルソースは、あくまでもカキの美味しさを引き立てるために存在しているからだ。


うまさの秘密その4は、お客さんに食べることに集中してもらおうという気配りである。食べている間にも、次々と新しい客が入ろうとする。そのたびに女将さんが「ただ今、お待ちいただくことになります」と告げる。勝手を知った客は、それで店の外に出る。まれにこのルールを知らない客が店内に残ろうとすると「おそれいりますが、お外でのお待ちをお願いしております」と告げられることになる。店の中に人が立っていては、食べている人が落ち着かないからだ。


うまさの秘密に満ちた「亜樹」さんのカキフライは、まさに絶望的である。うまいのに絶望的とはこれいかに。つまり、大好きなカキフライを他のお店で食べるたびに「亜樹」さんのカキフライを思い出すことになり、それなりに美味しいカキフライも「亜樹」さんのカキフライを超えられないことを思い知らされるからである。


ある意味、罪作りなカキフライなのだ。でも、幸せなお昼であった。あまりの幸福に、半年以上も放置していたブログまで書いてしまった。

昨日のI/O

In:
某大学電子科学研究所教授インタビュー
Out:
InsightNow投稿原稿

昨日の稽古:

ジョギング40分・腹筋210回