トンがったコピーの力とは


56ヶ月連続、前年対比売上アップ


書籍と雑貨を組みあせた書店『ヴィレッジバンガード』既存店売上高の
記録である。実にほぼ5年近く、前年同月に比べて売上をアップしてい
る(日経MJ11月11日)。生半可なことではモノの売れない時代に考
えられないことである。ここには一体、どんな秘密があるのだろうか。


行ったことのある人はわかると思うんだけど、ここは本屋さんじゃない。
本も売っている変な店である。何が変なのか。置いてある商品が変であ
る。もちろん本はある。が、ナイフがあったり、モデルガンもあったり、
いろんなグッズもある。


しかも同じヴィレッジヴァンガードという名前でありながら、一店一店
の品揃えが微妙に違う。ある店のコミックコーナーには泉昌之がほぼ全
巻揃っていてすっげーと思って、別のヴィレッジヴァンガードで探すと
これがまったくない。そのかわり、こっちには諸星大二郎が揃ってたり
する。


どっちの店でも、すっげージャン、なんてちょっとのけぞらされるのだ
けれど。で、どの店にも平均的に大友克洋は揃ってたりする。やっぱ変
である。


そして極めつけが商品に付けられたPOPだ。実は、このPOPこそがヴィ
レッジヴァンガード躍進の秘密なんだけれど、これが実に変だ。たとえ
ばこんな具合。


「球団買うなら、これを買ってください」。何これって! どんな商品
に添えられていたPOPかといえば、十数万円もするCDプレイヤーだと
いう。変でしょう、確かに。そもそもこれって、一体、誰に対するメッ
セージなの? って思いませんか。


このPOPが登場したのはホリエモンの球団買収騒動の頃だという。とい
うことはターゲットは一応ホリエモンらしい。だからといって、たった
一人の有名人に呼びかけたって意味ねえじゃんなどと侮っちゃいけない。


このコピー、トンがってます。ホリエモンにしか呼びかけていないのに、
妙に突き刺さってくると思いませんか。特に、仕掛けられたタイミング
があの大騒動の渦中だったりしたら効果あったはず。店頭POPの力をな
めちゃいけない。


藤村正宏さんの本には、ある雑貨屋さんで見かけて、とっても引っ掛か
ったコピーとして次のようなものが記されていた。
「これをBGMにして落とせなかったら、その女性は、あきらめなさい」
その商品はJohn Coltrane「Ballad」。


このコピーも、今夜か、もしくは近いうちに彼女を口説いてやろうと思
っている人だけに向けられたメッセージ。だけれども、ぐっと迫ってく
る力がある。トンがっているからだ。


では、トンがるためにはどうすればいいのか。イメージ的には鉛筆の先
を尖らすのと、同じである。まわりの余計なものを削っていけばいいの
だ。そして、先がトンがって、要するにターゲットが絞り込まれれば絞
られるほど、そのメッセージは鋭い切っ先を持つようになる。


万人にわかるように、なんてくどくど説明してちゃ、決してこうはいか
ない。ほんの少し触れたか触れないかぐらいなのに、スパッと鮮やかな
切り口を残すほどの冴えは、この思い切りの良さから生まれる。


そして、これこそが「編集力」じゃないのだろうか。誰に、何を伝える
のか。まず伝えたい相手の顔が、声が、息づかいまでが見えるぐらいに
なるまでターゲットのイメージを自分の中で具体化してみる。そして、
その人だけ突き刺さるようなメッセージを考えてみる。できるなら、人
間の三欲に絡めた表現にすると、より切っ先が鋭くなりそうだ。


ヴィレッジヴァンガード躍進の原動力は、編(集力)に支えられた変
(の力)にあったのだ。



昨日のI/O

In:
Q社会社案内用資料
Out:
A社社長インタビュー原稿
Q社会社案内編集企画案


昨日の稽古:富雄中学校体育館

・基本稽古
・紅白試合
・約束組手
・自由組手


2時間でわかる!「モノ」を売るな!「体験」を売れ!―エクスペリエンス・マーケティングがあなたの会社を救う!