mixiはグーグルになれるか


時価総額2221億円


結局、買い気配値で終わったmixiの初日、同社の時価総額はいきなり新興市場で第六位となった。が、ホリエモンや村上さんなどを反面教師としてしっかり学んできた笠原社長は会見でも決して浮かれることなく、さすがと思わせるコメントに終始している。つまり「とりあえず時価総額世界一をめざしま〜す」なんて威勢のいい(でも中身からっぽな)セリフをぶちあげることは、まったくなかったようだ。


そうではなく「本業の強化に集中することで、株主や社会の期待に応える」と繰り返したようだ(日経産業新聞9月15日)。見事に優等生的というか、突っ込まれることを警戒した無難な(すなわち、意味のあることは何も言ってないともいう)内容である。ただし、たったこれだけのコメントの中にも、mixiの今後を占うカギはかっちりとはめ込まれている。


ポイントは、本業の強化に集中することで、これだけの時価総額を付けた株主や社会の期待に応えることができるのか、ということだ。日経産業新聞の記事によれば

これを二千億超の時価総額に、似合う五十億ー百億円程度の利益を生む事業規模に育てるには、新しいビジネスモデルの開拓が必要になりそうだ
日経産業新聞9月15日)

とある。


なかなか新しい説というか、不勉強な私が知らないだけだと思うのだが、企業がめざすべき利益を算出するベース指標の一つに、いつの間にか時価総額が採用されているようだ。だから時価総額が2000億規模となると、それに「似合う(似合うという表現もあいまいというか、何というかだけれど)」利益が、50〜100億となるらしい。これまた絶対額にして50億の幅であり、相対的に考えれば倍もの開きというのもどうかと思うが、日経産業の記事に突っ込むことが本意ではないので、よしとしておこう。


ちなみに同社の売上と経常利益の実績(05年度)&予想(06年度)は次の通りである。
売上高:1,893→4,790(百万円)
経常益:912→1,720(百万円)
日本経済新聞9月5日)


仮に06年度の予想がどんぴしゃだったとしても、日経産業が求める利益水準には遠く及ばない。もちろん上場してすぐに結果を出せ、などとは誰もいわない。また時価総額がいつまでも現状レベルにとどまるとも思えない。mixiの前にやはり京大卒若手社長ベンチャーで騒がれたドリコムの株価は、上場時の三分の一程度まで落ちている。そのドリコムmixiのようなサービス業ではなく、確かな技術力を持つメーカーである。しかも同社は上場後にも画期的な製品を開発している。それでも株価は落ちる。


ということはmixiもご祝儀相場をベースとして、その三分の一から四分の一ぐらいにはやがて時価総額が落ちていくだろう。それなら『似合った』利益総額も同社の予想ベースに収まってくるのかもしれない。しかし、もとより時価総額に「似合った」利益目標などを設定していては経営者失格である。


そんな話ではなく株主からの投資に対して、株主が期待している利回りを上げることができるかどうか。この一点にこそ経営者はフォーカスしなければならない。だから前回のエントリーで書いたように、調達で集まった資金の使い道がなくて、とりあえずは預金するなんて答では経営者として落第なのだ。
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20060906/


では、mixiはたとえばグーグルのような爆発的な成長を遂げる可能性はあるのだろうか。今のところという留保付きではあるけれども、難しいのではないだろうか。なぜなら、mixiのビジネスモデルそのものに最初から、ある一定の限界性が組み込まれているからだ。


mixiはいうまでもなくSNSである。つまり会員限定のサービスモデルである。会員に限定しているからこそ参加者は安心して自分のプロフィールを登録したり、プライベートな日記を公開したりしている。そしてmixiのメインコンテンツは典型的なWeb2.0モデル、つまり会員の日記であり、コミュニティへの書き込みだ。これを『読む』楽しさ(=時間消費の価値の高さ)がすなわち会員にとってのmixiの価値である。


だからmixi会員はサイトでの滞在時間が長い。この滞在時間の長さがスポンサーにとっては価値となる。属性の掴めているターゲットにフィットした広告を長時間露出できること、イコール広告媒体としての価値が高い、だから広告出稿料も異例の高額が認められるというわけだ。


そのmixiが無限に会員を増やしていくことは無理である。仮に日本国内での事業展開に絞ったとすれば(ここは結構ポイントだと思うけれど)、会員数には自ずと上限がある。しかも、少なくとも今のmixiのテイストであれば、メインターゲットも限られてくるだろう。つまりいわゆるF1、M1をボリュームユーザートするなら、その絶対数がマックスになるということだ。


と同時に会員制モデルの宿命ものしかかってくる。つまり会員制の魅力は、その限定性にある。逆にいえば「誰でも入れる」とか「みんなが入っている」ような状態になってしまうと、会員制モデルの魅力が損なわれてしまうことになる。そんなの、ちっとも会員制じゃないわけだ。


こうした限界性をいかにクリアしていくのか。今のところmixiの選択肢を限定する要因はない。だから、ターゲットを変え、提供価値を変えといった具合に考えて、今後いろんなモデルを展開することは可能だと思う。そのための資金もある。ただし、単純な本業強化だけで投資家の期待に応えられるかどうか。笠原社長の次の一手(必殺技としてトップハンティングによる経営者交代なんて案もある)は、注目である。



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『街場の現代思想内田樹
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