松井・がに股打法と馬歩站椿
10センチ、スタンスを広く
ケガから復活した松井秀喜は打撃フォームを変えていた。構えた時にスタンスを10センチほど広くとり、ひざを外側に開いた(がに股風になる)のだという(日本経済新聞10月4日)。
なぜか。ケガをしている間に、どうすれば大地からもっとエネルギーを取り込むことができるかを考えた結果だという。たとえば上から縄かなにかで吊り下げられ、地に足が着いていない状態でバットを振っても力は入らない。しっかりと足を大地につけて、地球のエネルギーを両足、体幹、両手からバットを通してボールに伝えるから、強い打球を遠くに飛ばすことができる。
そんな記事を読んで思った。「おおっ! これは八極拳の震脚に通じる話ではないか」と。八極拳では突きや肘撃ちを出す前に必ず大地を「ダンッ」と強く踏みしめる。これを震脚という。この震脚により発勁(体の内面から出る強力な力)を得るのだが、松井の言ってることはこれと原理的に同じことではないのか(というか、八極拳の方がずっと前からいってるわけだが)。
そして、もしかするとそうやって大地から得たエネルギーを上半身に伝えていく上で決定的に重要な仕事をしているのが、大腰筋ではないのか。(ついでにいうなら、シンクロニシティが起こっているのではないか)。
なぜ、そんなことを思ったか。八極拳ではもっとも基本的な稽古として馬歩站椿をやるからである。馬歩、つまり馬にまたがる姿勢になり、ひたすら耐える。まさに「立ち方三年」の世界である。古の達人・李書文の最後の弟子となった劉雲樵は幼い頃、師の李書文からこの馬歩だけを毎日、毎日やらされたという。
馬歩は何のためにやるのか。これこそもしかしたら大腰筋を鍛えるためではないのか。大腰筋を鍛えるのはなかなか難しい。体の内側、まさに体幹部分についている筋肉だけに、よほど意識して、しかもその筋肉を使うような動きをしない限りは、そう簡単には鍛えることはできない。その鍛錬には能の動きがいいらしいことを、つい一昨日のエントリーで書いたばかりだ。
→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061003/1159834760
しかし、さすがに中国は武術でも奥が深いのである。八極拳とは震脚によって大地からの力を得て、それを破壊力として突きや蹴りに伝えていく拳法。であるなら、まったく見当違いの解釈なのかもしれないが、その力の源は大腰筋を使えるかどうかにかかってくる。そして、大腰筋を鍛えるための修練方法が馬歩站椿なのではないかと思い当たった。
普通の站椿は立禅ともいわれ、極真会館の廬山師範などがよくやっている。その目的は内なる力を養うためといわれているが、その姿勢は高く、もしかしたら大腰筋を鍛える目的もあるのかもしれないが、自分でやってみる限りは大腰筋に効いているとはあまり思えない。
ところが、これが馬歩站椿となると、目一杯腰を落とさなくてはならない。膝も、太もももきついのだが、さらに大腰筋にも効いている(ような気がする)。これはもしかしたら、年寄りに取っては願ったりかなったりの鍛錬方法なのかもしれない。なんてことを思いついた。
実は馬歩站椿のやり方については、もう3年ぐらい前からあるホームページをプリントアウトしたものをノートにはさんで持ち歩いている。これをたまに読み返しては、ほんの少しだけ実際に馬歩站椿をやったりしていたのだが、それがここにきて「能の本」「松井秀喜の新聞記事」とタイミングよく一気に重なった。こういうことがあるのも、実に面白い。
馬歩站椿については、下記のサイトをご参照ください。
→ http://www.geocities.jp/kyo_yu_kai/mabu.html