Appleは何を狙っているのか

299ドルのポータルマシン

Appleの隠し球、iTVである。ハード的な機能は、パソコンの中にある動画コンテンツ（に限るわけじゃなくて、あらゆるコンテンツが対象となる）を、リビングルームのテレビ画面に無線で飛ばして見ること。家庭内で主に、ビデオをパソコンからテレビへと飛ばす装置とでも考えればほぼ間違いない。

ハードとしてみればiTVはそれだけのものでしかない。が、iTVはもしかしたら、これからのライフスタイルを大きく変えるツールになるかもしれない。何を、どう変えるのか。

パソコンとの付き合い方を、前のめり型から「ふんぞり返り」型へと変えるのだ。プライベートルームで一人で使うものから、リビングルームでみんなで使うものに変える可能性もある。

AppleがiTVで狙うのは、とりあえずは同社がアメリカで始めた映画配信サービスのバックアップである。映画一本ダウンロードするのに30分ぐらいかかるようだけれど、それでも便利なサービスであることには変わりはない。ちょっと買い物に行くのにもクルマで30分とかかかるアメリカでは、その利便性は高いはずだ。

そうやってせっかくダウンロードした映画ならば、やはりできるだけでかいモニターで見たいのが人情。そこでiTVの登場となるわけだ。パソコンにダウンロードされた映画を、iTVを通じて無線でハイビジョンテレビに送り、リビングでみる。たぶんソファにふんぞり返ったり寝転んだりしてみるのだろう（ついでにポテトチップスとコーラとかもあるだろう）。と考えればiTVが普及する可能性はそこそこ高いはずだ。

とはいえ当面は見る対象は映画に限られている。

でも、映画しか見ちゃいけないわけじゃない。パソコンにダウンロードされた動画、画像、もちろんWebサイトなどもテレビ画面で見ることができる。とくればYouTubeも、iTVでみるコンテンツの一つになってくるだろう。残念ながら今のYouTubeの画質で大画面に映し出したりしたら、何が何だか映像になってしまうだろうけれど、こういう技術的、通信インフラ的に解決可能な問題は、たいてい必ず数年後には解消される。それは歴史が証明している。

そのころ、ネットにはどんな動画コンテンツが飛び交っているだろうか。動画にもCGM（海外ではUGMというらしい）の波が起こっていると思う。

そのときテレビ局はどうなっているんだろう。ニュースなどはすでにアメリカではある程度、ネットでの動画配信が始まっている。これが何を意味するのか。放送される、つまり放送時間が決まっているニュースを見なくとも、ニュースぐらいは好きな時に見ることができるということだ。

それでもドラマ、スポーツ、バラエティ番組などはテレビ放送しか見る手段がないのかもしれないが、果たして、いつまでそう言っていられることか。スポーツ番組などはもしかしたら、そのスポーツ（というか試合ですね）の主催者が生中継するようになるかもしれない。たしかソフトバンクの試合などはネット配信が始まっていたんじゃなかったっけ。

少なくともネットで配信する分には、テレビ放送局が抱えているような莫大な初期投資を必要とする放送設備は不要だ。しかもユーザーメリットを考えれば、テレビで決まった時間にしか放映されないのとネットでいつでも好きな時に見ることができるのとでは、どちらにメリットがあるかなど言うまでもない。

となるとテレビが唯一優位に立てるコンテンツは、テレビならではのドラマということになるのだろう。だが、それもいつまで保つだろうか。つまり、ドラマがテレビのコンテンツとして成立するためには、スポンサーがつかなければならない。スポンサーが高い広告費を払うのは、そのコンテンツの広告効果が高いと考えるからだ。

では、広告効果とは何か。いろんな指標があるが、とりあえずは視聴者（＝生活者）へのリーチだろう。ここで問題になるのは、その生活者の時間である。ネット経由でいろんなコンテンツを見ることができるようになれば、当然、そうしたコンテンツを見ることに生活者の時間は取られていく。いってみれば生活者の時間について、いろんなコンテンツがシェアの奪い合いをすることになる。

そのとき、テレビドラマがどれぐらいのシェアを取ることができるだろうか。ある程度のシェアは確保できたとして、リアルタイムでドラマを見る人はどれぐらいいるのだろう。何らかの形で録画（たぶんハードディスクが主流になるのだろうけれど）してみる人は、わざわざコマーシャルを見るだろうか。

と考えてくると、3〜5年後のリビングルームでテレビ画面に映し出されている映像は、今とは相当に違っているように思う。そして、そのとき、そのテレビ画面のポータル、つまり電源を入れたときに最初に映し出される画面は何か。

それはiTS（iチューンズストア）、Appleの壮大な野望は、ここにあると考えるのはうがちすぎだろうか。

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