ケータイ族vsパソコン族


15%から22%へ


ネットをケータイだけで使う人の割合が増えている(日本経済新聞4月17日)。東京大学には千文字程度のリポートなら携帯メールで提出する学生が居り、女子大の中には携帯でリポートを出す学生が全体の一割はいるところもあるようだ。おっちゃんとしては想像するだけで指が引き攣りを起こしそうな話である。


とはいえケータイが電話から電脳文房具に変わってきていることは間違いなさそうである。そのトレンドをシンボライズするのが「ケータイ小説」ブームだろう。小説が売れない時代にも関わらず、ミリオンセラー級のヒット作を書くケータイ作家が続出しているという。


その作家さんはなんと一日3〜4時間もケータイに向かい、ひたすら親指(だけなのかな? 本当に)で小説を打つ。信じられないけれども本当の話らしい。


日経の記事によれば、ケータイ族とパソコン族の間には明らかな違いがあるという。

通話の延長線上の携帯メールと、手紙の延長線上のパソコンメール。時間や表現方法に対する感覚の違いが摩擦を招く。

国立情報学研究所助教授の小林哲郎はケータイ族は「内輪で固まる」傾向が強いと指摘する。「文字数に制限がある携帯メールは、立場が異なる人に自分の考えを説明するには不十分」なためだ。
日本経済新聞4月17日朝刊・ネットと文明


なるほど、この説明にも一理はありそうだ。が、文字数に制限があるとはいえ、ケータイでリポートを書いたり,小説まで書く人がいるのだから、文字数が決定的な制限要素になっているとは思えない。たしかケータイメールの文字数制限は5千字だったはずで、これだけあれば十分だろう。逆に考えればパソコンメールで5千字も書く人がどれだけいることか。ていうか、5千字ものメールが来たら、たとえパソコンでもよほどのことがない限りは最後まで読まないでしょう。


それより何より、ケータイ族とパソコン族の違いは視野の広さ(引いては思考の枠の広さ?)にあるのではないだろうか。


とりあえず物理的に画面サイズが圧倒的に違う。ということは画面内に表示されるテキストの分量が異なってくる。パソコンならモニターサイズは最低でも10インチぐらいある。これに比べればケータイはもっとも大きな画面でも3インチちょいぐらい。ここで3倍の差が付いている。


テキストを書く場合には、何より大切なのがコンテクストである。要するに文章の前後の脈略がどれだけ取れているか。このコンテクストにより文章はわかりやすくもなるし、超難解にもなる。そしてコンテクストを考えるためには、自分がいま書いているテキストと、その前に書かれたテキストをいつも見比べることが必要だ(ものすごく頭の良い人なら、すべてを自分の脳内だけで処理できるのかもしれないけれど)。


ここで画面サイズが影響してくると思う。


コンテクストに配慮しながらテキストを書こうとすれば、ケータイは圧倒的に不利である。もちろんパソコンが有利だからといって、パソコンで書かれたテキストがよりコンテクストがわかりやすいなどとはいわない(自分の書いた文章を見直してみても、そんな大それたことはいえない)。しかし、パソコンを使っていれば、まだ可能性はある。ところがケータイでは、ほぼ絶望的ではないのか。


先に挙げた東大生の書いたケータイリポートはどれぐらい説得性のあるものになっているのだろうか。あるいは女子大生のリポートも、その完成度にはとても興味を引かれる。また東大生がケータイリポートの文字数を千文字程度に限っているのは、さすがにある程度はコンテクストを意識しているからとも考えられる。


では、ケータイで書かれるテキストはどんな色合いを帯びるだろうか。流れよりも反射神経、思考よりも反応あるいはノリ、構成的に対する即興的といった特徴を持つのではないだろうか。であればケータイコミュニケーションで求められるのは可能な限りリアルタイムに近い反応だろう。電話で話す代わりのメール、パソコンならチャットみたいなもんじゃないんだろうか。


ということはケータイでテキストを書き、それをやり取りするというやり方は、コミュニケーションにまったく新たな様式を切り拓いた可能性あるとも考えられる。そうしたコミュニケーション様式がこれからの人間関係のあり方に、どんな影響を及ぼしていくのか。結果が出るのはおそらく十年後(早ければ五年後)ぐらいになるだろう。


勝手に予測するなら、それでも一応書き文字(=思考がいったん客観化される)コミュニケーションのレスポンスが加速されることにより、より良いコミュニケーションが生まれる可能性が3割程度。コンテクストを考慮しないテキストがバラ撒かれる(=コンテクストを考慮できない人が増える)危険性が7割程度になるんじゃないだろうか。


昨日のI/O

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伊東弘一教授インタビュー原稿
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