中国が日本を買いにくる


98年686億円→06年620億円


日本のソースマーケットは、ほぼ完全に成熟した市場である。人口減や食生活変化の影響をまともに受けて市場規模は縮む一方だ。そんな中シェアトップのブルドッグソースに対してアメリカの投資ファンドスティール・パートナーズ」がTOBをかけた(日経産業新聞5月21日)。


買収意図は今のところ不明である。シェアトップとはいえソースは成熟市場であり、同社に今後の成長性はあまり期待できない。ただその財務体質は良好で、利益剰余金が130億ぐらい積み上がっている。これを原資に高額配当を迫るとか、MBOをやらせるとかいった狙いが推測されているようだ。いずれにしてもスティール社は投資ファンドなのだから、経営に関わるつもりはなく純粋にマネーゲームを行っているのではないだろうか。


さて、日本で成熟市場となっているのはソースマーケットだけではない。そして、そうしたマーケットにはブルドッグソースのように、シェアをしっかりと確保し、財務体質も良好、ただし海外進出は積極的に行なわず、地道に現状維持気味に経営を行っている優良企業がほかにもいくつもある。


こうした企業を日本国内で評価するなら、今後の成長性に乏しくあまり魅力のない企業ということになる。しかし、そんな企業も海外からみれば、まったく違った見え方をするはずだ。


いくら成熟市場とはいえシェアをしっかり確保するためには、いくつかの条件を満たさなければならない。それはたとえば製造関連の合理化技術であり、高い品質をキープするノウハウであり、そのための設備であったりする。そこに魅力を感じる企業がある。中国を筆頭とするBRICsの同業である。


食品、日雑など日本では成熟化している産業でも、BRICs諸国ではこれからの成長が大いに期待できる。そうしたマーケットで鎬を削っている企業にとっては、日本企業が持っている技術力やノウハウは宝の山に見えるだろう。日本企業のノウハウを手に入れたところは、一気に競争優位に立てるのだから。


そこでこれまでなら日本企業に対して提携、技術供与を求めるのが一般的な流れだった。しかし今後、状況が変わる可能性がある。とりあえず、その動きに注目すべきは中国企業だろう。これから先、日本企業を買いにくる中国企業が続出するかもしれない。


時価総額で比較すれば、次のようになる。
携帯:中国移動22兆7700億円/NTTドコモ9兆5000億円
銀行:中国工商銀行26兆4000億円/三菱UFJ14兆5000億円


すでに携帯電話の分野では中国移動はNTTドコモの2倍以上の時価総額を誇る。あくまでも仮定の話だけれど、三角合併を使えば中国移動がNTTドコモを買収することも不可能ではない。少し歴史を振りかえってみれば、中国企業による日本企業の買収事例はすでにある。何年か前に老舗工作機械メーカーの池貝と印刷機械メーカーの秋山印刷機が上海電機集団に買収された。昨年には中国無錫のメーカーに日本の太陽電池メーカーが約340億円で買収された。


買収した中国企業の狙いは日本企業の持つ高い技術力だろう。おそらくはこれまでの中国企業に「技術がないなら、それを持っている日本企業を買えば良い」という発想はなかったはずだ。なぜならそんなことを考えたって日中の総合的な経済格差が障害となって、そうはおいそれと買うことはできなかったはずだから。しかし、今や状況は変わってきている。


中国はここ10年以上、年率8%ぐらいの高成長を続けてきた。おかげでいまや日中のGDP購買力平価で換算し直せば、すでに中国の方が日本の2倍ぐらいになるという話もある(→ http://ja.wikipedia.org/wiki/購買力平価説)。当然、企業の時価総額も膨れ上がる。そこへ日本では株式交換を使った三角合併が解禁された。まさに待ってました状態なのだ。


しかも

「チャイナ・モバイルも工商銀行も、上海市場に上場していますが、最大の株主は中国政府。株価なんていくらでも操作できるんです」
中国企業は資本主義の論理ではなく、国家の意志に基づいて動く。(中略)いくら損をしてもその企業が欲しいという中国企業の前では(買収防衛策は)無意味なんです。トヨタを手に入れられるんだったら、銀行のひとつやふたつ潰れてもいいーーそれが中国の論理です」
週刊文春、2007年5月24日号、28P)


中国が本気になれば、買える日本企業はいくつもある。これまで中国が欲しがったのは、まず産業機械である。次に狙われるのは消費材や食品メーカーだろう。ブルドッグソースTOBをかけたのはアメリカの投資ファンドだったが、これが中国の食品メーカーだったとしても何の不思議もない。


ブルドッグの専務は「何でうちがという気持ちだ」とコメントしている。誠に以てローカルリズムに富んだ発言である。だからこそ同社は「海外への展開も遅れていた(日経産業新聞5月21日)」わけだ。しかし、これって黒船来襲の時の日本人と根本的なメンタリティがあまり変わっていないんじゃないんだろうか。


時代は大きく変わっているのである。とりあえず、特に競争の激しくないマーケットで、それなりのポジションを確保し、安定した(=あまり成長性のない)経営をされている優良・老舗・上場企業経営者のみなさんほど今後は、中国企業から見て自社が魅力的に見えるのか見えないのかを気になさる必要があると思う。


追加:
書き終えてふと思ったんだけれど、スティール社が中国企業の隠れ蓑になるってケースはあり得ないんだろうか。正面切って中国企業が日本企業を買収するのは波風立つから、まずは投資会社が買う。そして、しばらく時間をおいた後、主役の中国企業が出てくる。なんてケースもあり得るのかなと思いました。


昨日のI/O

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某社ソフト添付小冊子原稿
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昨日の稽古:富雄中学校体育館

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