バリアフルシティ東京
全140駅中18駅
バリアフリー化対応率にして13%。国土交通省が発表した全国の鉄道駅でバリアフリー化がもっとも遅れているのが東京メトロとなった(日本経済新聞2007年8月17日付け夕刊)。
駅のバリアフリー化の基準はエレベーターやエスカレーターを設置するだけでは十分ではなく、高齢者や障害者が段差なく移動できる経路が最低でも一カ所ないと基準外になる(前掲紙)
基準自体がなかなかに厳しい。しかも東京メトロでバリアフリー化が遅れている理由には、日本で最も早い時期から整備されてきた地下鉄だから仕方がない面もある。たとえばエレベーターを後から付けるのは、駅の構造上極めて困難なケースがあるわけだ。
メトロの中でも古い路線が造られた当時は、バリアフリーなどという考え方そのものがなかった。だから車イスユーザーのためにエレベーターを付けなければならない事態などまったくの想定外なのだ。当然、今からエレベーターをつけようとしても構造上、ほとんど不可能なケースもあると想像する。
ただし、である。だからといってこのまま放ったらかしにしておかれるのはやはりまずいのではないか。
一般的にはあまり知られていないかもしれないが、10月に日本でサッカーのワールドカップが開催される。電動車いすサッカーである。車イスサッカーとはいえ一応ワールドカップだ。世界6カ国から選手が集まってくる。選手はもちろん車イスユーザーだからサポートする人たちもあわせて、海外からやってくる関係者は200人ぐらいになる。
ひょんな縁で、この電動車いすサッカーワールドカップジャパン大会のお手伝いをすることになった。やっているのは選手達が休日に東京観光に出向くときのガイド作りだ。幸いにして理事を勤めているNPO法人(NPO法人まちの案内推進ネット)で東京の地下鉄全駅で車イスユーザーが楽に移動できる立体案内図『らくらくマップ(特許申請中)』を制作している。これを使えば東京の主な観光地へのアクセスガイドは簡単に作れると思ったら、これが大間違いだった。
選手一行は新浦安のホテルに泊まる。そこから銀座に出たいとしよう。これを「駅探」などのサイトで乗り換え経路を検索すると、JR京葉線で八丁堀まで行き、そこで東京メトロの日比谷線に乗り換えればオッケーと表示される。
ところが案内する相手は車イスユーザーである。八丁堀駅でJRから地下鉄に乗り換えられるのかと、八丁堀の駅員さんにお尋ねすると「無理だ」といわれた。なぜならJRと地下鉄駅の間に20段ほどの階段があるという。もちろん絶対に無理だという話ではない。車イスに乗った方がJRで八丁堀駅に着き、地下鉄に乗り換えたいのですがと頼めば駅員さんが階段を担いで運んでくれるはずだ。だから不可能ではない。
とはいえこちらが案内するのは、各国のサッカーチームである。となると車イス(しかも恐らくは電動だから重いはずだ)ユーザーが何人かグループで移動することになる。ということで現実的には対応不可能という話になった。では、どうすれば良いのかとJRに尋ねたところ、とりあえず東京駅まで来て欲しいとのこと。
東京駅構内は完全バリアフリーになっており、地下鉄丸の内線までも車イスで何の不自由もなく移動できる。これで一件落着と思ったら、もう一つ難題が控えていた。メトロの乗り換えである。
メトロ東京駅から六本木まで行きたいとなった場合、普通は銀座で日比谷線に乗り換える。ところが銀座駅がくせ者なのだ。ここは恐らくメトロの中でも早い時期に作られた駅なのだろう。丸の内線、日比谷線、銀座線の3線が乗り入れているのだが、乗り換えのための経路がバリアフリーではなくバリアフルなのだ。現実問題として車イスユーザーが自力で乗り換えることは不可能である。
そこで少々遠回りとはなるが、六本木へ行くなら霞ヶ関経由、表参道へ行くなら赤坂見附経由で案内することになる。実に不自由を強いられる。とはいえ、これをタクシーで選手団が移動するとなると、そもそも電動車いすをタクシーに積めるのかという問題から、仮に積めるとして一台のタクシーに何台の車イスが乗るかという問題までクリアしなければならない。タクシーの台数が増えれば、当然コストも大幅に割高となるだろう。JR、地下鉄などの公共交通機関を使っての移動と比べれば、交通費だけで10倍ぐらいにはね上がることになる。
東京といえば、何といっても日本を代表する都市である。日本の顔ともいってよい都市が、このようにバリアフルであるのはいささか問題ありといえるのではないか。というようなことは東京メトロさんでも先刻お分かりのはず、今後の改善に期待したい。