iPodが開いた世界


半年で年間販売目標をクリア


この調子で売れ続ければ、一年で年間目標の倍の売上に到達する勢いである。それも一本が37万円もする高級スピーカーの話だ。パイオニアが今年6月に発売した「S-3EX」はセットで70万以上するにも関わらず団塊世代からの強い支持を集めている。さらにハイエンドタイプのスピーカー「TAD」は一本の価格が実に315万円もするが、受注残が60本以上あるという(日経産業新聞2007年11月30日付け)。


見事なまでのパイオニアの先見の明である。同社は3年前にある未来予想を立てた。それはかつて熱心な音楽ファンだった団塊世代がこれから大量に退職すれば、高級オーディオの時代が再来するという予想だ。これが当たった。


退職金で買うちょっとした自分へのご褒美にオーディオはドンピシャでフィットしたということだろう。若いときには欲しくても手のでなかった高級オーディオでも、退職金とのバランスを考えれば決して買えない金額ではない。これから先、持て余すことが予想される長い時間を良い音とともに過ごすのは、まっとうな投資とも考えられる。世代特性を考えれば奥さんだって音楽好きである可能性が高いから、これぐらいの出費は目をつぶってくれるだろう。


団塊世代が再び音楽を聴くことに関してのハード面については、こうした背景があったのだと思う。さらに後押ししたのがソフト面の変化だ。


ソフトに関してはAmazonが果たした役割が大きく影響しているはずだ。つまり今なら何か買いたいCDがあれば、たいていは家に居ながらにして手に入れることができる。しかも完全にとはいえないが試聴もできる。輸入版にまで対象を広げればとんでもなくレアな作品をゲットすることも可能。買ってみて外れだったらオークションに出す手もある。しかも以前に比べればCDの価格自体もぐっと安くなっている。よいこと尽くめである。


団塊世代にオーディオやCDが売れる環境はハード、ソフトともにいつの間にかしっかりと整備されていたのだ。そこに最後のワンプッシュをかけたのがiPodだったのではないだろうか。


iPodはもちろん若い人たちに受けているけれども、若い人たちだけでなく少し年輩の方々にも秘かに受けたのだと思う。カセットやMDにわざわざ録音してまで電車の中で聴くというのは面倒な人でも、iPodなら簡単である。とりあえず持っているCDの中からお気に入りを手当り次第に放り込んでおけば良い。これで音楽が再びぐっと身近な楽しみとして復活したのではないか。


そうしてiPodで音楽を聴き始めてみると、団塊の方々(だけとは限らない、自分もそうだ)の耳にはiPodのアラも気になったはずだ。最初からiPodしか知らない人たちは気付かないし、気にもならないかも知ないけれど、レコードからCDへと音源の変化に伴って驚き体験をしてきた耳には、iPodの音質は今イチである(個人的にもそう思う)。


つまり団塊世代にとっては、音楽を買い・聴くためのハードとソフトがちょうどよい案配に整備されていて、しかも退職金というちょっとぜいたくをできるだけの資金的な余裕もできた。そしてiPodが音楽をもう一度身近な存在にしていて、もっとよい音質で音楽を楽しみたいと思ってもいた。これだけ条件が揃っているのだから、高級オーディオが売れるのも納得である。


いま、中・高級オーディオが中高年の間で静かなブームになっているという。マランツ、デノン、ボーズなど昔懐かしいオーディオメーカーが今ごろになって新製品を次々と出しているらしい(日経MJ新聞2007年11月21日付け4面)。


iPodが登場したのが、もう6年ぐらい前の話だと思う。その時点ですでにパイオニアが5年先の団塊世代向け高級オーディオマーケットの伸びを読んでいたのかどうかはわからない。もし仮に読んでいたとしたら、大した先見の明だと思う。


とはいえ、今から過去を振り返って考えてみれば、この5年間の変化は納得のいく変化でもある。つまり読もうと思えば読めないことはなかったはずだ。団塊世代がかつて熱心な音楽ファンだったこと、彼らが5年後には大量リタイアし始めること、そこそこに退職金にも恵まれていること、余暇を持て余すであろうこと、そしてiPod登場の意味などを総合的に考慮すれば、である。


以前のエントリーではマーケッターにはKYよりMY(マクロ&未来を読む)力が必要だと書いたけれど、もう一つ付け加える必要がありそうだ。つまり未来のヒントは、過去にあるということ。歴史はやはり繰り返すのである。その意味では空気ではなく過去を読む力として『KY』も必要なのかもしれない。



昨日のI/O

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『知らずに他人を傷つける人たち/香山リカ
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「無線電源が実現するとき」
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マクド偽装事件が引き起こす未来」
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昨日の稽古:

・レッシュ式腹筋