構造的劣化問題


5年間で110万件増加


全国での救急車の出動要請数である。

救急車を要請しておいて駆けつけると本人はコンビニに行って留守だった、パーティの準備をしている母親が「この子を病院まで連れて行って」と救急隊員に保険証を差し出した、「30分後に救急車を1台」と出前の注文まがいの通報をしてくる。
香山リカ『なぜ日本人は劣化したのか』講談社現代新書、2007年、48P)


呆れるばかりのモラルハザード、すなわち劣化が起きている。つい先日のエントリー「目安は200字の問題点(→ http://d.hatena.ne.jp/atutake/20071129/1196286902)」に引き続き、香山リカ氏の本を読んで(実際には話も聞いたわけだけれど、インタビューテーマはまた別だった)啓発されたことを少し。


ひと息で読める活字の数が800字から200字へと4分の1にまで落ちていることは前に書いた通り。これに加えて香山氏が指摘するのは企業(職業といった方がよいのかもしれない)モラルの低下である。ここ最近連発している食品関係の偽装事件は、バレなければ嘘ついても良いという考え方が背景にあるとしか思えない。


バレなければ嘘ついても良いは、バレなければ悪いことをしても良いに通じる。しかし、ここで少し立ち止まって考えるべきは、たとえば偽装事件を引き起こした人たちは、果たして自らの行為を「悪い」ことと自覚していたのかどうかではないのだろうか。


あまり認めたくはないことだが、このところの偽装事件の張本人たちは「悪さ」に対する感覚が麻痺していたように思えて仕方がない。


たとえばニチアスの建材性能偽装表示とか栗本鉄工所の鋼材偽装などは、もう何年も昔からずっと継続されてきたはず。最初に悪事を企てた人物こそ「自分がやっているのは違法行為であり、万が一の場合には人の命を奪う可能性がある」ぐらいの自責の念は持っていたのだろうが、それ以降に偽装を引き継いできた現場担当者も、管理職もさらには経営トップも、自社の偽装工作は当たり前の行為と化していて何の良心の呵責も痛みも感じてこなかった。


真相はこんなところじゃないのか。


香山氏の「劣化」という表現に従うなら、これは本来経年変化を意味する用語だろう。しかもそのニュアンスは劇的な変化ではなく、極めて緩慢ではあるけれども一方向的に進む変化が、あるとき臨界値を超えた時点でいきなり顕在化したといったイメージがある。セリーヌ風にいうなら『なしくずしの死』である。あるいは「ゆでガエル」現象と言ってもいい。


以前取材したある経済学者は、マクロ的に見た経済の流れの大きな変化はだいたい60年周期で起こると言っていた。もし仮に経済ではなく人質(人間の質ぐらいの意味ですね)にも大きな変化が来ているのだとすれば、その原点は終戦に行き着く。


敗戦の痛手を見事にはね返して経済面では奇跡的な復興を遂げた日本は、その経済的成長を手に入れる替わりに人間としてどんどん劣化していった。そんな仮説も成り立つのかもしれない。あくまでも仮説であることを断った上で、その証となるお箸をきちんと持てない世代の存在を指摘しておきたい。


言うまでもなくお箸の持ち方は、家庭での躾のイロハのイ的に重要なものだと思う。食べなければ人は生きていけないのだ。その食べる行為、そこに連綿と伝えられてきた技法を親から教えられていない世代が、その他のさまざまな物事を判断する基準をまともに授けられているとは考えにくい。


食べることの意義を、食べる作法を通じて教えられれば、食べられることへの感謝の気持ちも育まれるだろう。その気持ちが引き起こすのは、食べ物を作っている人と行為への想像力だと思う。そうした行為を経験しなかったがために想像力を十分に養うことができず、物事の根本的な判断基準を継承できなかった世代の人たちが登場し、そこで何らかの断絶がスタートした。


そこで生まれた亀裂が徐々に口を広げていき、60年かけて人間の質の恐ろしい劣化となって露呈している。もし、そうだとすればそこからの復興策はどうすればよいのか。


まず何より大切なのは「自分も劣化しているかもしれない」という病識を持つことだろう。たとえば道に平気でモノを捨てられるかどうか。人に嘘をついて平然としていられるかどうか。もっと単純に食事の前後に「いただきます」「ごちそうさま」と感謝の言葉を、感謝の気持ちを意識して発しているかどうか。人と会ったときに、きちんとあいさつしているかどうか。


こうした人が生きていく上でのごくごく基礎的な行為を通じて自分の病み具合を自覚し、その上で自分のまわりの人が病んでいないかどうかを確かめ、できるところから少しずつでも直していく。


私の考えた仮説がまったく当て外れで、こんな面倒なことを今さらやらなくても良いことを祈りたい。



昨日のI/O

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□InsightNow最新エントリー
 「マクド偽装事件が引き起こす未来」
http://www.insightnow.jp/article/781

昨日の稽古:

・懸垂