マクドナルドの巧妙なNo.1戦略


今後は、店長二千数百人に残業代を支払う


マクドナルドが極めて重大な経営判断を下した。これまで管理職であることを理由に支払ってこなかった店長への残業代を、今後は一転して支払うことにした。

同社は一月に東京地裁から約七百五十万円の残業代支払いを命じられた以降も「店長は管理職」との主張を続けてきた。今回の転換は、「店長を管理職として残業代を払わないのは無理がある」との見方が世間で広がり、このままで企業イメージが悪化するとの判断があったとみられる(日本経済新聞2008年5月21日付け朝刊13面)。


確かに判決以降の世論の流れは、同社にとって無視できない要因だっただろう。イメージが重要な外食産業とあれば、その悪化を真剣に懸念したことも容易に想像できる。だが、マクドナルドが方針を反転した裏には、もっと戦略的な狙いがあるのではないだろうか。


ポイントは、同社が外食業界でのNo.1企業であることだ。


店長を管理職とみなさずに、残業代をきちんと支払う。まず、この考え方が一般的な認識として醸成されつつある。これが社会背景である。当面、この流れが変わることはない。と読むならば、この流れを自社に有利に生かすためには、何をすべきか。ここを考えるのが戦略だ。


そこでマクドナルドが採ったのは、オーソドックスなNo.1戦略ではないだろうか。すなわち、マクドナルドは自社にもダメージがあることを承知した上で、2位以下の企業に対してよりダメージを与える戦略に出た。


このダメージ戦略の狙いは、ブランド、財務、人事の3つに効いてくる。まずブランドについては、業界トップのマクドナルドが店長に対する残業代支払いを行なうのであれば、同じような形態で店舗展開を行なう他社も、これに追随せざるを得ない。仮にどこかが「うちはあくまでも、店長は管理職だから残業代は払いません」などと主張すれば、その企業に対するブランドロイヤリティは落ちるだろう。


だから2位以下の企業も、店長に対して残業代支払いを迫られることになる。すなわち、従来存在しなかった経費項目が増えることになる。それでなくとも薄利で勝負している外食業界にとっては、この追加人件費が財務上のダメージとなる可能性は高い。


しかも、この経費は基本的に付加価値を生まない。ということは店長の残業代が増えた分、どこかでコストを削減するか、あるいは投資を抑えるしかない。ただでさえコストについては限界まで絞り込んでいるはずなのだから、おそらくは各社ともに投資を抑える方向に動かざるをえないだろう。それこそが、マクドナルドの思うツボではないだろうか。


さらにである。資金余力がなくなることは、人材採用にも悪影響を与える。外食産業の売上は、店長さんをはじめとするスタッフの能力に大きく左右される。人件費を削減しなければならないから、良い人材を雇うことができない。あるいはコスト削減余地がないために、店長に対する残業代を支払わない。いずれを選択しても、優れた人材獲得の上ではマイナス要因として効いてくる。


つまり、体力にまだ余裕のあるNo.1企業だからこそ、競合に対するダメージ効果を狙った体力勝負に出た。これが今回のマクドナルドの方針転換の裏にある戦略ではないのだろうか。


しかも同社は、店長に対して残業代を支払うことにしても、同社独自の給与体系に照らして考えるなら人件費総額ではアップ要因とはならないとの説明を付けている。相当に巧妙に練り上げられた戦略的な意思決定が、今回の店長に対する残業代支払い宣言だったのだと深読みした(真相は、まったく違っているのかもしれないけれど)。




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