広告代理店がなくなる日


8チャンネルの全番組を1週間分


すべて残さず録画できる凶器ができた。凶器というのは、広告代理店やテレビ局にとっての意味である。視聴者にとっては「驚器」とでも表現すれば良いのかもしれない。そのマシンの名をSPIDER PROという。
http://www.ptp.co.jp/spiderpro/function/index.html


上記のサイトには、次のような説明がある。

SPIDER PRO を使えば、約1週間分のテレビ番組やCMを最大8チャンネル分、同時に自動的に録画し、録りためた映像を保存・検索することが可能です。常に古い映像を自動上書きしているので手動で消去する必要もなく、常に手元に最新1週間分を貯めておき、フリーキーワード検索ですべての露出シーンを見つけだせるのです。


この説明が何を意味するか、わかるだろうか。


まず確実なのは、CM効果の劇的ダウンである。すなわち、たいていの人がごく一部のCM(自分が好きなタレントが出ている、自分が好きな曲が使われている、どこかで見ておもしろかったなど)以外は、たぶんCMなど見なくなるだろうということだ。極言すれば、テレビCMの費用対効果はほとんどゼロに近くなる可能性がある。


あるいは、ゴールデンタイムの意味がゼロになるということである。もちろん、すでにゴールデンタイムの価値は相当に減価している。家族揃ってテレビの前でご飯を食べる、そのときにみんなで一緒にテレビを見る、といった生活習慣がなくなりつつあるのだから、当然といえばそうである。


しかし、一応はもっともテレビの視聴率が高くなる時間帯というのはあるわけで、それが夜7時から10時とされていたわけだ。ところがありとあらゆる番組をいったん録画しておいて後から見るとなれば、好きな時間に好きな番組を見ることができる。放送局が作っているプログラムなどまったく意味を持たなくなる。


従って「いちばん視聴率が高くなりますから、ゴールデンタイムのCM放送料金はちょっとお高めなんですよ。その代わり、効果もばっちりでっさかいに、ふっふっふっ」などといったトークはまるで意味を失う。


もっとも、こうしたテレビ局&広告代理店ビジネスモデルに致命的なダメージを与えかねないマシン&システムは、これまでにも何回か登場した。まずビデオデッキがそうである。見たい番組を録画しておけば、いつでも好きなときに見ることができるし、コマーシャルも早送りしてしまえばいい。えらいこっちゃ、と業界の方々は少しぐらい焦ったかもしれないが、結果的には何も変化は起こらなかった。


だって、めんどくさいのだ。当日の番組ならともかく、何日も先のプログラムまで探して録画予約とかするのは。だからといって毎朝、今日の録画番組を決めて予約するというのも面倒である。それにCMを早送りできるったって、あくまでも早送りである。瞬間的に飛べるわけじゃない。要するに期待されたほどには便利じゃない。


ところが、数年前にアメリカで、テレビ局と広告代理店を相当にビビらせるビジネスモデルが登場した。これをTiVoという(→ http://www.tivo.com/)。ハードとソフトの両面からビデオが抱えていた欠点を一つずつていねいに潰していって開発されたサービスである。


まずTiVoに加入したユーザーは、デジタルレコーダーを設置する(テレビとつなぐ)。このマシンをネットにもつなぐと、ネット経由でTiVoからテレビ局の番組リストが送られてくる。ユーザーは、この番組表を見ながら、自分が見たい番組をチェックしていく(具体的にはリモコンのボタンを押すだけ、だからとても簡単だ)。するとデジタルレコーダーが予約した番組をすべて録画しておいてくれる。とてもらくちんである。しかも再生時にはCMをすっ飛ばす(デジタルだから本当に一瞬ですっ飛ぶ)ことができる。


これには、テレビ局も広告代理店も相当に焦った。TiVo登場時には(もう7、8年前だろうか)、5年後ぐらいには全米のユーザー数が3000万とかになるといった予測も出された。こんなものが日本に入ってきたらえらいことになる。そう考えた大手代理店さんから依頼を受けて、アメリカのニュースサイトをくまなく検索し、TiVo関連のニュースを集めては毎月レポートする、なんて仕事をさせてもらったこともある。


結局TiVoは、当初予想されたような普及曲線を描かなかった。その理由がなんだったのかはしらべていないのでわからない。


しかしSPIDER PROは、ビデオはもちろんTiVoともまったく次元が違うんじゃないだろうか。クリティカルマスを超えたというか、量の飛躍的な増大が質の転化をもたらすというべきか。ありとあらゆるテレビ番組を丸々1週間分、手元に録っておけるということが何を意味するのか。


おそらくテレビ局は、単なるコンテンツプロバイダーになり下がる。放送プログラムにまったく意味がなくなるのだから、プログラムに付随して発生していた権益はすべてなくなる。せっせと番組を作ってはSPIDER PROに提供するだけの存在、それがSPIDER PRO普及後のテレビ局の姿である。


今はまだマシン自体がかなり高いから、すぐに爆発的に普及することはないだろうが、仮にこれが10万円以下で手に入るようになれば(理想的には閾値といわれる5万円を切るようになれば)とんでもないことになる。もしかしたら、テレビ放送がなくなる(少なくとも現在のテレビ局のビジネスモデルが成立しなくなる)可能性もある。だって、今のようにCM放映料を取ることはできなくなるのだから。


その結果、テレビはぜんぶ有料放送か国営放送、そんな時代への扉をSPIDER PROは開いたのではないだろうか。




昨日のI/O

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静岡大学・三村教授インタビューメモ

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勝手広告の威力」
http://blog.mag2.com/m/log/0000190025/
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昨日の稽古:

※首と肩と背中の筋肉がおかしいぐらい痛いです。