口伝の意味


神は細部に宿る


バウハウス創始者ミース・ファン・デル・ローエが、建築について語った言葉だ。この警句をこれまでは、デザインや文章表現に関するテキストで使ってきた。しかし、真理はあらゆるものに通じるからこそ真理たりうる。そのことを昨日、塾長に稽古をつけてもらっていて改めて悟った。


何のことかといえば前蹴りの受けである。受け方はいくつもあるが、昨夜気づいたのはもっとも基本的な下段払いでの受けについて。お互いに左前の組手立ちに構えて、相手が前足となっている左足で前蹴りを出す。この蹴りを左手で下段払いをして受ける。特に考えることもなく自然に体が反応する。簡単である。


と思っていたら塾長に、相手の足のどの部分を手で受けているかと尋ねられた。あるいは私の相手をしてくれている方に「足のどの部分に手が当たっているか」とも。こちらは質問の意味がよくわからなかった。つまり前蹴りに対する下段払いでの受けといえば、構えた左手を肘を支点として体の前で半円を描くようにして下ろし、その手で相手の足を受ける。それぐらいの意識しかなかったのだ。


だから、自分の手『が』相手の足のどの部分に当たっているか、などということが意識に上ることはなかった。当然、自分の手『を』相手の足のどこかに当てようという意図もない。「だから、あかんのや」と塾長は言われた。


何がダメなのか。


相手の足のどの部分に自分の手をどのように当てるのかを考えていなければ、まず間合いの意識が鈍くなる。確かに。ということは、受けが雑になっているわけだ。そんな受けでは、上段者の蹴りをさばくことはできない。そんな間合いの意識では、蹴りをまともにもらうこともあるだろう。


さらにである。自分の手を意識的に相手の足の特定の部分を狙って受けにいかなければ、受けた後の動作も意志のこもった動きとはならない。前蹴りが来た、下段払いで受けた、落とした相手の足をローで蹴りにいった。もちろん最初はそれで構わないのだが、いつまでもそれではダメなのだと。そのままでは技の進化はないのだと。


具体的には、受けに行った手は必ず相手の足首を狙う。この『狙う』意識が大切なのだ。狙って受けに行くのと、ただ受けるのとでは大きな違いがある。狙って受けるということは、次のアクションを前提とした動きになる。つまり受けから返し技への一連の流れが想定されている。しかし、ただ受けるだけなら、その次の動きも成り行き任せで終わってしまう。そこを意識してもらいたいという教えである。


足首を狙えば、そのまま道着の裾を掴んでしまえる。相手を片足で立たせて、もう一方の足を制しているのだから、これほど有利な体勢はないだろう。しかも相手の足首を足首を正確に掴むためには、間合いをきちんと測っていなければならない。つまり蹴り足がどこまで伸びてくるのかを瞬間的に判断する必要がある。これが本当の意味での稽古になるわけだ。


表面的には、単純な一本組手に過ぎない。相手の前蹴りを受けてどう返すかという極めてシンプルな稽古である。しかし、一見簡単に思える稽古を「簡単に」流してしまうのと、一本一本微妙に異なる相手の蹴りの強さやその届き具合までに気を払い、しかも相手の足首を狙って受けに行き、さらにはその後に続く返し技までを頭に置いた上で稽古をするのとでは、技の練り込み具合がまったく異なってくる。


もちろん、普段の組手稽古のときにそうした受け返しが簡単に出せるわけではない。相手が連続的に繰り出す攻め手の中の一つに前蹴りが混ざっていたとしても、咄嗟に返し技を出すことはやはり至難の業ではある。しかし、そうした返し技を意識して稽古して、自分の体に練り込んでおけばどうなるのだろうか。組手の中でも狙っていれば、この受け返しを出せるだろう。


理想は相手の蹴りに対して自然に返し技までが一連の流れとなって出せることだ。そのレベルまで技を自分の体に練り込むことができれば、間違いなくいざというときに自分のみを守る動きができることになる。


ポイントは、まず意識の持ち方である。基本稽古の時にのんべんだらりと突き蹴りを繰り出していては稽古にならないことはわかっていたが、一本組手も、というかむしろ一本組手こそどこまで細かいところにまできちんと意識をもって、自分の体の動かし方、相手との間合いの取り方、相手の体の制し方を考えて稽古するかによって、自分が到達できるレベルがまったく異なってくることがよくわかった。


「前蹴りを下段払いで捌くときには、相手の足首を狙うこと」。こういうのを口伝というのだろう。だって、これまで読んだどの空手の技術書にもそんなことは書いてなかった。大きな発見を得る稽古となった。


昨日のI/O

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昨日の稽古:西部生涯スポーツセンター・ダンススタジオ

・縄跳び稽古
・基本稽古/突き
・移動稽古/蹴り
・ミット稽古/蹴り、受け

・一本組手
・基本稽古