『キッチンひとさら』さんの秘密



薄さは優しさ


これは何だろうと思って食べてみた。何かのフリットである。揚げる前に刻んでいたのは見ている。仕上げに塩をぱらりと振りかけているところも目にした。しかし、肝心の素材が何だかわからない。衣を通してかすかに見える色は、少し濃いめのグリーン。


これはまた変わったものを、もしかしたグリーピースでも揚げたのか知らん。はたまたピーマンかといぶかしみながら口に放り込んでみると、ほんのかすかに苦みを感じる。「あれっ、これってもしかしてゴーヤ?」とたずねれば、ビンゴである。


普通ゴーヤといえばチャンプルである。少し肉厚に切り、その苦みを楽しむというか味わう。ところが『キッチンひとさら』さんは違うのだ。ゴーヤをあえて薄く切りそろえ、どちらかといえばしっかりめに衣をつけて揚げている。なるほど、これは新しい味わいだと思う。同じゴーヤを使っていながらも、そのアイデアがおもしろい。


そんな話をしようとして「たぶん、この薄さにたどり着くまでに試行錯誤を繰り返したのでしょうね」と聞いてみた。もちろんその通りなのだが、理由が違っていたのだ。単なるアイデア、新しい味を求めて薄切りにしたわけではないという。では、何のために?


ゴーヤはWikipediaには次のように記されている。

独特な苦味があるので、好き嫌いが分かれる野菜として知られ、種子に共役リノレン酸を含むことが知られている。主に未成熟な果皮を食用とし、ビタミンC等の水溶性ビタミンを多く含む事や、健胃効果もある苦味(苦味成分として、モモルデシン(momordicin)を含む)のため、近年では夏バテに効く健康野菜・ダイエット食品としての認知度が上がり、日本全国のあちこちで栽培されるようになった(→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%AB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B7


ゴーヤはどちらかと言えば、好き嫌いが分かれるのだ。が、夏バテに効く健康野菜なのだ。だからメニューに入れようと『ひとさら』さんは思った。昨日は8月24日、みんな、そろそろ夏バテの出る時期である。が、ゴーヤの苦みを好まないお客さんもいるだろう。そこで、薄切りにして揚げたのだ。


あえて薄切りにした理由をたずねてみると、返ってきたのは「苦手な人にもおいしく食べていただきたいから」だった。言葉として聞いたわけではないが、付け加えるなら「夏バテにもいいですから」だろう。そのためにゴーヤをどれぐらいの薄く切れば、フリットにしたときの味が一番やさしくなるかを吟味する。


そこで冒頭の質問である。何回も繰り返したそうだが、それでも比較的決まるのは早かったという。では、ベストの薄さはどうやって決まるのか。あるいは何を判断基準として決めているのか。頭の中にはとてもクリアなイメージがあるそうだ。何回か試してみると、そのイメージにピタッと合う瞬間がくる。「そんなときは、仕込みをしながら一人でガッツポーズしてますね」。


ここで間違ってはいけないのが、単なる自分の理想の味を『ひとさらさん』が追求しているのではない、ということ。それだけなら料理人のエゴである。違うのである。お客さんに喜んで欲しいから、ということはつまり、おいしいご飯を食べて元気になって欲しいから、さらに突っ込むなら、おいしく食べるひととき(大げさに言えば人生の一部だ)を通じて、その人の人生が豊かであれと願うから。


と、まあ、ここまでいくとちょっと解釈もふくらませすぎかも知れないけれど。でも、せっかく食べてもらうのならベストの味を。そして食べることで少しでも健康に。だから『ひとさら』さんは一皿ずつ料理を仕上げるのだし、自然の調味料しか使わない。


改めて敬服しました。ごちそうさまでした。


『キッチンひとさら』さんシリーズ、よろしかったら、こちらもお読みください。
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20090503
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20090509
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20090602
http://d.hatena.ne.jp/atutake/20090629


昨日のI/O

In:
『文章表現の技術』植垣節也
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ライフネット生命・広報さまインタビュー原稿
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昨日の稽古:富雄中学校武道場

・基本稽古、ミット稽古