バイトを雇う怖さ
オムライスに60分
家の近くに、なかなか雰囲気の良い居酒屋を見つけた。バイトの女の子の愛想が良くて、声も良い。料理の質もまあまあ。スタッフが掛け合っている声を聴いていると、店の運営から教育までそれなりに考えられている。
そして安い。つまりコストパフォーマンスはかなり高いと感じたのが、先々週の土曜日のこと。40人ぐらいは入れる店は、ほぼ満席で、バイトの女の子が4人ほどでホールを回していた。枝豆のゆで具合、塩加減はよくできていたし、ポテトなどはカラッとした揚げ具合でおかわりしてしまったほどだ。
しかもハイボールも凝っていた。ジンジャーハイボール(だったと思う)というオリジナルを用意している。これが何かと言えば、ジンジャエールで割り、さらにショウガを効かせたもの。ウイスキーの割り方としては、かなりいけてるのだ。
そこで、昨日も予約を入れてまで行ってみたのだが、さて。
まずホールスタッフの少なさが気になった。女の子は一人しかいない。もう一人、男性スタッフが忙しそうに動いている。そりゃそうだろう、前回の土曜日より客の入りは少ないが、それでも二人で回せる客数ではない。
が、問題はホールよりもキッチンにあったようだ。「これ、ちょうだい」と頼むと「今日はできないんです、すみません」メニューがいくつもある。オーダーを通してから「申し訳ありません、売り切れました」なんてずっこけることもある。
そして遅い。
さすがにドリンクはすぐに出てくるが、料理が遅い。これが前回との大きな違いである。味は、まあ悪くない。この間と変わりないといっていい。が、何しろ遅いのだ。こちらは家族連れゆえに、息子はお腹をすかせている。もちろん未成年だからアルコールを飲んで、時間を潰すわけにも行かない。
はやく、ご飯を食べたいのだ。その彼が頼んだのがオムライスである。これが50分待っても出てこない。しびれを切らして、お姉さんに「オムライスはどうなってるの?」とたずねてみると、彼女はキッチンに走っていって「もうすぐです」と戻ってきた。
そしてバイトらしきお兄ちゃんがオムライスを持って出てきたのはよいが、そのまま隣の席に持って行くではないか。それを見ていたおねえちゃんは「違う、違う」と言っているが、お兄ちゃんには聞こえていない。結局、そのオムライスは隣のテーブルに運ばれた。
が、カウンターに戻ったバイト君はお姉ちゃんから何か言われて、そのオムライスを下げに行った。そして、我々のテーブルに持ってきたのだ。そのオムライスは、口こそつけられていなかったものの、隣のテーブルの誰かがスプーンで、取り分けようとした後だった。
つまりご飯を包んでいる玉子が、無残にも破られていたのだ。それを「どうぞ、お待たせしました」と持ってくるお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、自分のしたことの意味を理解できていないだろう。我々が「そんなん、持ってくる?」とたずねても、何も答えなかったから。「もう、いらんわ。残りの注文もぜんぶいらんし。帰るから」というと「オムライスを作り直していて、すぐできますから」という。
せっかく店長さんが良いお店にしようとがんばっているのに、これでは台無しではないか。店長さんも、まさか、よその席に出して、そこのお客さんが手をつけた料理を、別の席に平気で持っていくバイトを雇っていたとは、夢にも思わなかっただろう。
もちろん、持ってきたオムライスを、さあ取り分けて食べようとしていた隣の席の人たちも怒っていた。当然だ。その席から取り上げて、我々の席に運んできたオムライスを、何とバイト君は再び、その席に、そのまま持っていったのだから。
バイト君に悪気がまったくないことは、彼の態度からわかった。それだけに恐いと思った。接客業は、お客さんをもてなす人が、最大の商品。このことを肝に銘じておかないと。
昨日のI/O
In:
『日本語の作法』多田道太郎
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