四十歳からの空手8・叩け、叩け、叩けぇ〜

atutake2008-07-09



「いったぁ〜。めっちゃ、効きますわ。もう一発、お願いします」


ひと通り稽古が終わった後のちょっと変わった光景である。青帯の先輩が支部長にローキックを蹴ってもらっているのだ。支部長はその体重がおそらく軽く80キロに達していようかという(もっとあるかも知れない)偉丈夫である。足はもちろん、手もゴロンとした丸太ん棒のようにごつい。その支部長のローキックたるや、一体どれほどの威力になるのか。


言うまでもなく、そんなローキックをまともに見舞われたことはない。支部長が本気で蹴ったりしたら、それは文字通りの凶器である。鍛えていない人の足なら簡単に粉砕してしまうだろう。そんな恐ろしい蹴りを、わざわざ頼んで打ち込んでもらっている先輩の気が知れなかった。


一発蹴るたびに「ズンッ」とも「ズシッ」とも聞こえる重い音が響く。たとえるなら砂袋の上にさらに、湿った砂をぎちぎちに詰め込んだ袋をどさっと置いたときの音とでもいえばいいだろうか。とにかく重量感たっぷりの音である。しかも支部長はいったん稽古が終了してからのことなので、サポーターを付けていない。傍で見ている方が痛みを感じるような蹴りである。


なぜ、そんな蹴りを受けているのかといえば、太ももを鍛えるためなのだろう。本来の目的が痛みになれることにあるのか、いったん細胞を壊してしまい、より強い細胞を生み出すことなのかは知らない。いずれにせよ蹴りが効いていることだけは間違いない。支部長もきっちりと効かせるべく、ヒットさせる瞬間には足首を曲げてすねを固めている。あな、恐ろしや。


帯に色がついたら、あんなとんでもない稽古もやらんとあかんのやろかとびびっていると、ある日の稽古が終わってお呼びがかかった。指名してくださったのは、初めて組手の相手をしてくれた黄帯の先輩だ。まさかね、人の足を蹴るつもりじゃないでしょうなと訝りながらそばに行くと、なんと「蹴ってくれ」とおっしゃるではないか。


太ももを鍛えるためにローキックを蹴ってくれというのが、先輩のリクエストだった。恐る恐る蹴ってみる。痛い。が、先輩は「もっと思いっきり蹴るように」とご不満の様子。仕方がない、意を決してかなり力を入れて蹴ってみる。ギャッと声を出しそうになる。


なのに「まだまだ。もっと力いっぱい」とか言われる。痛い、足がたまらなく痛いのだ。すねがじんじんしびれるのだ。信じられないぐらい固いのである、先輩の太ももが。右十本、左も同じだけ蹴らせていただいた結果、明らかに私のすねは腫れあがっていた。


さすがに、これではイカンと思ったのである。何とかせんとアカンと考えたのである。一念発起して始めたのが「明日のためのレッスンその一、叩け、叩け、叩けぇ〜」作戦だった。


これが何かといえば、ちょうどうまい具合に誰かからもらった荒縄を巻いたお酒のボトル(中身はすでに飲み干してある)で、ひたすら我が身を叩くのだ。テレビを見ながら、すね、太もも、前腕に拳をゴンゴンやる。もちろん最初はそぉ〜っとである。でも、こういうことをやり始めると結構執念深くやるたちなので、各部位を毎日100回ずつしっかりきっちり叩いた。


叩いていると、内出血する。当然、痛い。が、たいていほろ酔い加減というよりはいささか酔っぱらった状態でやっているので、痛みは次第にうまく麻痺してくれる。最初はほんとにそっと叩き始めるのだけれど、80回目ぐらいになると結構ガツンとぶつけたりする。ときどき、打ち所が悪かったのか飛び上がるほど痛いこともある。


しかし、ひたすら「叩け、叩け、叩けえ〜(あしたのジョー風に)」である。家人は最初「何してんの」視線を送ってきた。そりゃ、そうだ。自分で自分を固いビンで叩いては、イタッとかギャッとかわめいているのだから。女性からすれば、というか普通の感覚でみれば「アホちゃう」のひと言だろう。


自分自身もバカなことやってるなと思った。バカさ加減を痛感するのは稽古の時だ。すなわち、そんな体で稽古するとどうなるか。特にミット稽古や組手稽古の時である。早い話が自分で自分の体を意識的に痛めつけているわけで、その痛いところをさらにミットなり相手の体にぶつけると「確実に」激痛が走る。


しかし、である。人間の体とは、本当によくできているものだと感心した。その順応能力たるや、誠にすばらしい。叩いているうちにいつの間にか痛覚に馴れてきたのだ。厳密に言うと痛みに馴れたのか、細胞が強くなったのかはわからない。とにかく蹴っても、蹴られても、今までより少しだけ痛くなくなった。


それがうれしくて、さらにガンガン叩くようになった。家人の理解不能視線はちょっとつらかったけれど、息子は「お父さん、すごいなあ」なんてうれしいことを言ってくれるものだから、叩け叩け作戦はその後さらにエスカレートしていった。





昨日のI/O

In:
『ビジネス頭を創る7つのフレームワーク力/勝間和代
りそな銀行法人営業部長さまインタビュー
Out:
静岡大学三村教授・インタビュー原稿

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昨日の稽古: