バイクと限界の話


50、250、250、400、125、350、250、250、125


19のときに初めて乗った50cc・オフロードタイプ以来、9台のバイクを乗り継いできた。浪人、学生時代はとりあえず時間だけは有り余るほどある。暇に空かせてバイクを乗り回し、1年で4万キロぐらい走っていた。といって別にロングツーリングしていたわけではない。家から学校(片道だいたい20キロぐらい)、学校からバイト先、バイト先から家をぐるぐる回ってただけだ。


回ってたんだけれど、通学路、通勤路(バイト先ですね)をわざわざ遠回り設定したりしてバイクの練習をしていた。学校へ行くときは比叡山の山中越え、バイト先から返ってくる時は天ケ瀬ラインといった具合。学校に行ったらいったで東山の将軍塚で練習したり。


バイクの練習というのは、曲がりくねった道をいかに速く走るかがテーマである。コーナーを速く走ろうと思えば、基本的にはコーナーに入る前にきちんとスピードを落として、次にできるだけすばやく車体を起こして加速するのが一番だ。これをスローイン・ファストアウトという。


もちろんコーナーのR、タイヤの性能、路面状況、対向車のあるなし、そして根性というか何というかが複合的にバランスされたうえで、どれぐらい車体を傾ければいいか、どこの地点から加速すればいいかなどの条件は、同じコーナーでも一回ごとに変わる。それがおもしろかったのだ。


練習場として最高だったのは、夜中の山中越えである。雀荘が締まる時間まで遊んで、それから滋賀県堅田まで帰る。このコースでいつもタイムを計っていた。時間は夜の12時前ぐらい、20年以上前の話で、その頃はまだクルマで峠道を攻めるなんて人もいなかった。だから、だいたい8キロぐらいの山中越えのコースではすれ違うクルマも10台なかったぐらいだ。夜だと対向車があるかどうかがライトでわかる。クルマが来ないことがわかれば道幅一杯を使って走れるわけだ(この頃はセンターラインの凸凹障害物とかなかったから)。


そうやって北白川から家まで20キロぐらいのコースを15分ぐらいで走っていた。当時乗っていたのがRZ350(これ、アールゼットサンパンなんて呼んでたらしいけれど、個人的にはどうも「サンパン」という言葉の響きが好きになれませんでした)。これが最高におもしろいバイクだった。2サイクルの加速の良さ、車体の軽さと前後バランス、ブレーキの利きなどが絶妙のバランスである。加速だけをみると、ゼロヨン12秒ぐらい、スタートして時速100キロ出るまでが5秒ぐらい。ポルシェ並みだったと記憶する。こいつで山道を走ってると気分はもう「ケニー・ロバーツ(といっても誰も知らないだろうな)」である。


で、ごくごくたまぁ〜に「ボーヤン(ってわかりますかね、いわゆる暴走族のことですけれど)」っぽいバイクが一台で走ってたりすると、その後にぴったり付いて走ってあげたりもした。彼らのバイクはだいたい改造バイクで、しかも改造する目的が速く走るためではなく、目立つことだったから、山道なんかを走るのにはものすごく乗りにくいのだ。でも、意地だけはあるから、こちらが後に付いたりすると「負けちゃなんねぇ」とばかりにがんばってくれる。くれるんだけれど、後から見てると危なっかしいのが見え見え。しかも道をわかってもいない。


こっちは山中越えなら学校の行き帰りに走ってるから(それもわざわざ二往復とかして)、どのコーナーがヤバいか、ヤバいコーナーのどの辺りにギャップがあって、砂が浮いてることが多いのはなんてことまでわかってる。余裕である。これはなかなかにおもしろいバトルだった。もちろん峠を下りきったら速攻逃げましたけれど。


幸いこのコースをRZで走っている間は限界を超えることがなかった。というか限界まで攻めることができなかった。その前に乗っていたGSX400では、2回ぐらい転けている。その原因は、バイク自体の限界の低さとこちらの技量が低かったからだろう。このバイクを1年で乗り潰してRZに乗り換えたわけだが、これが限界のわからないバイクだった。


限界はわからないのだけれど、それでも十分に速い。自分の腕から考えて、もしこのバイクで限界を超えたら、それは相当にヤバいことになると思ったから限界を試すようなことはやらなかった。ので、RZでは一回も転けていない。


本当は限界がわかっていた方がいいのだ。わかっていないと、意識せずに超えてしまうことがある。一度だけ滋賀県の希望ヶ丘の道でVZと勝負になったことがあって、下りの緩いコーナーに150キロぐらいで突っ込んでしまったことがある。RZの限界は超えてなかったから何とかクリアできたものの、自分の心臓の限界は超えていたようで、このカーブを抜けてスピードを落としたとき、心臓がギュ〜ッと縮み上がり息ができなくなった。


という具合で、限界を不意に超えるのは危ないのだ。だから限界はわかっていた方がいい。ところが、自分の限界がどこにあるのかは、超えてみないとわからない。これが限界についてのパラドックスである。なんてことをやってたのも、もう25年ぐらい前の話になる。またバイクに乗ってみようかなあとは思わないでもないけれど、道路状況がまったく変わってしまってるから、いま峠とか走ったらものすごく遅くて、めちゃめちゃ恐いと思う。



昨日のI/O

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