BtoBマーケティングの夜明け
すなわち
Attention:まず注意を引き
Interest:興味を持たせ
Desire:欲しいなと思わせて
Memory:商品を覚えてもらう
Action:そして買ってもらう
一般的に広告はこの中のAttentionからMemoryまでの役割を受け持つ。テレビコマーシャルをはじめとして新聞、雑誌といろんなメディアを駆使して、これでもかとばかりに広告を露出するのはすべて、店頭で「あっ、これこれ」と手に取ってもらうためだ(だった、と過去形で表現する方がもしかするとより適切なのかもしれない。ネットという従来とはまったく異なりショップ機能まで兼ね備えたメディアが登場した今となっては)。
いずれにしても一般消費財の場合は、購買決定者が基本的には一人である。ここが産業材マーケティングが一般消費財のマーケティングと決定的に異なるところだ。産業材マーケティングの場合は購買の意思決定に関わる人間が実に多岐に渡り、しかもそれぞれが異なる考えを持っているケースがほとんどである。
確かに購買部の担当者は一人かもしれないが、その人が全権委任されているケースは稀だろう。彼には上司がいる。その上司の上の階層にはマネジメント層が控えている。しかも意思決定に関わる系統はこのような上下間のものだけではない。
購買対象が何らかのパーツであるとすれば、そのパーツを使って製品組み立てに携わっている現場の意見も考慮する必要がある。あるいはそのパーツ次第で完成品の性能や特長が変わる場合には、製品を販売していく営業部門が注文を付ける可能性も考えておかなければならないだろう。
こうして購買に関わる意思決定関与者が複数いることが産業材マーケティングを難しくする。関与者はそれぞれ自分の置かれているポジションによって意思決定の基準が異なるからだ。
たとえば製造部門では、生産効率がトッププライオリティとなることが多い。勢いパーツに求めるのは組み立てやすさである。しかし、それでは製品の差別化ができないと営業サイドからクレームが入ることも考えられる。だからといって差別化を実現できたはいいが、製品価格に影響するほどのコストアップとなれば、結果的に販売数にもダメージを与えるリスクを抱えることになりかねない。これでは経営企画サイドから待ったがかかるだろう。
産業材マーケティングとはこのように、さまざまな関数が絡まった複雑な連立方程式を解くようなものだ。購買決定までのプロセスに働いているメカニズムはAIDMAなどとはまったく異質である。
では、この難解な方程式で自社に最も有利な解を導き出すためにはどうすればいいのか。カギはコミュニケーションにある。あえていうならコミュニケーションにしかない。ところが意外にクライアントとのコミュニケーションは軽視される。むしろ本当の意味での、つまり双方向でのコミュニケーションが取れているケースの方が少ないのではないだろうか。であるがために特に技術力のあるパーツメーカーなどが陥りがちな罠が技術指向である。要するに「良いものさえ作れば良いんだろ」というスタンスだが、そうした独善的な態度ではまずダメだ。
なぜなら技術指向のパーツメーカーが考える「良いもの」と、そのパーツを使って最終製品を組み立てるメーカーの「良いもの」は、十中八九は異なるから。さらに突っ込むなら組み立てメーカー内でも「良い」の基準は決して一枚岩ではないのだ。しかも最終的にメーカーが満を持して出した製品が、エンドユーザーに「良い」と判断されるとも限らない。
と考えてみるに、そんな面倒なことをぐだぐだ言ってたって何も始まらんじゃないか。そもそもパーツメーカーにそんな複雑な方程式を解析する力があるのか、という声が聞こえてくる。
基本的には多くのパーツメーカーには解答能力はない(正確にはあまりなかった、ぐらいか)というのが正直なところだろう。あるいは、これまではそうした能力はあえて必要なかったというのがより実態に近い。なぜならこれまでの日本ではケイレツが実に効果的に機能していたからだろう。
ケイレツの中で下請けに甘んじている限りは、上から少々(相当?)無理を言われることはあったとしても、ややこしいことに頭を悩ませることなく何とか生き延びていくことができた。実際に高度成長期を経て日本全体が右肩上がりで成長していた時代は、わざわざ産業材マーケティングなどという面倒なことを下請けサイドが考える必要はまったくなかったのだ。
だから、この3年ぐらい前まで日本には『産業材マーケティング』といった言葉がタイトルに入っている本さえほとんどなかったぐらいだ。もちろん一部ではBtoBマーケティングがなかったわけではない。しかしごく限られた分野でのささやき声に近いものだったと思う。
ところが日産がドラスティックなまでのゴーン改革でケイレツ破壊を行なった。そこに追い討ちをかけるように中国に代表されるBRICs企業などのクォリティが高まってきている。これまでのようにケイレツに安住し、営業と言っても社長さんが付き合いゴルフや酒席に参じていればよかった時代は終わったのだ。
日本のメーカーも規模の大小を問わず、これからは否応無しに産業材マーケティングと向き合わなければならない。BtoBマーケティングの夜明けである。そこですべてのベースになるのはクライアントとのコミュニケーションである。今こそクライアント・コミュニケーションが必要な時代なのだ。
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