AKBの極めて巧緻なマーケティングを分析する


上位40人で100万票


6月9日18時から開票された「第三回AKB48選抜総選挙」の結果である。たまたま見ていた「ぐるナイ」放送後に速報ニュースが流された。びっくりした。東京では号外も出たらしい。次の日の京都(ザ・ローカル)新聞朝刊にまで、結果が載っていた。おどろいた。


というぐらいのAKBだが、ごく身近に熱烈なファンがいるおかげで、その実に巧妙なマーケティング戦略が少しわかったような気がする。以下、いわゆるマーケティング理論に基づいた分析をしてみよう。


まずプロダクトである。ということはユーザーにとっては、対価を支払ってでも手に入れたいと渇望させられる価値である。AKBの価値は、おそらくCDではない。この一点に、AKBマーケティングの真髄がある。CDはあくまでも握手会の参加チケットを得るため、総選挙での投票権を獲得するため、さらにはいくつものパターンが用意されている生写真を手に入れるための『おさい銭』ではないのか。


最新CDは久々に100万枚を超える大ヒットとなった。が、その理由は、100万人が買ったから、ではなく、一人で何枚も買うファンがいたからである。身近なファンは予算が限定されている故に数枚でがまんしたようだが(こちらは、まんまとはめられたのだが)、金満家のご子息には一人で何十枚もお買いあげになった方もおられるそうだ。自分が好きなメンバーを、少しでも上位にランクインさせてあげたい。ファン心理を巧みに突いた戦術ではないか。


全国各地で行われている握手会も、たいへんに盛況だと聞く。会場内での撮影は御法度らしいが、聞くところによると、とりあえず大阪ドームは超満員だったらしい。「何回か見に行った、プロ野球の時の比ではなかった」そうだ。その握手会に参加するためのチケットは、CDを買わないと手に入らない。


選挙、というのがまた、うまい仕掛けだ。それは自分が応援しているメンバーを上位に、というファン心理がある。ファン心理を盛り上げるためには、候補者はそれなりの数が必要だ。だから48人もいるのではないか。しかも選挙が毎回同じ結果に終わってはドラマがない。人はドラマに感動するのである。ギリシアの昔から同じである。


感動を生むためには仕掛けがいる。これは推測だけれど、ドラマを生むために『神セブン』が作られたのではないだろうか。つまり最初に『神セブン』というシンボルがあれば、それを巡って必ずドラマが生まれる。『神セブン』からもれて涙するメンバーがいれば、新しく上位7人に飛び込んで歓喜するメンバーがいる。その裏側には、それぞれのメンバーのファンが付いていて、彼らも当然悲喜こもごも。


落ちたメンバーのファンは、一年後には必ずと捲土重来を誓うだろうし、新しく入ったメンバーのファン、今回も上位をキープしたメンバーのファンは、来年もこのポジションを死守すべく応援するだろう。応援してもらうためには、握手会で握手をし、生写真でできるだけプライベート感を実感してもらうことが必要だ。


突き詰めれば、ユーザーにとっての価値は、48人もいるメンバーの中に、必ず一人は自分にぴったり合うメンバーがいることであり、その中の一人と、仮想的に付き合えること、ではないのだろうか。この価値に対して、ファンは対価を払う。


このシステムは、従来のCD販売モデルの限界を打ち破っている。売上とは単価×販売数で決まる。CDの価値が、CDに納められている曲にとどまっているなら、一人一枚のCDを買えば、それでユーザーのニーズは満たされる。販売数には限りがある。


ところがCDの価値が、CD分のおさい銭を奉納することによって得られる握手会参加券であったり、総選挙投票権であるなら、同じ人が同じCDを何枚も手に入れようとするだろう。すなわち、本来なら販売数に限界があったはずのCDの枠を超えて、CD販売数を増やすことができる。


よく考えられたマーケティング戦略ではないか。詳しく見ていないので、ここで触れられることはやめておくけれども、プロモーションもおそらくは巧みに練られているものと推測する。


生きたマーケティングケーススタディ、それがAKBなのだと思う。ほんと、賢いプロデューサーがついているものだ。


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昨日のI/O

In:
『文士の魂』車谷長吉
Out:
S社様アニュアルレポート原稿
神戸大学・吉井教授原稿

昨日の稽古: