アイデスってナンデス?


会員数60万人、口コミ情報370万件


女性向け「みんなのクチコミサイト」@Cosme(アットコスメ)の実績である。化粧品の口コミサイトとしてスタートし、今や化粧品情報専門のコミュニティポータルサイトとして不動の地位を獲得している(日経MJ4月14日)。
http://www.cosme.net/top/index


このサイト、おそらく最初は誰かが、こんなのがあったらおもしろそう、といった軽いノリで始めたんじゃないだろうか。確か何年か前にそんな記事を読んだ記憶がかすかにある(あまり正確じゃないけれど)。ところが化粧品&口コミといえば、若い女性が大好きなアイテムである。自然と人気を集めるようになり、いつの間にかビッグサイトになった。その意味では価格コムと似たようなケースなのかもしれない。


いまや60万人ものコアな化粧品ファン(だって、自分で情報を書き込むというのは、そういうことでしょう)を抱えたサイトは、メーカーにとってはとんでもない脅威であり、考えようによっては過去には存在しなかった魅力的なプレース(流通経路)ともなりうる。


下手な商品を出して、ここで妙な口コミでも立てられたりすると、当然売上には大きなダメージとなるだろう。逆に考えれば、ここをうまく使えばマーケティング効果が高くなる。事実、口コミをうまくコントロールすることで相当額の売上を上げた化粧品もあるようだ。


ネットならではのチャネルであり、同時にユーザーとのコミュニケーション回路ともなっているのが@Cosmeである。注目すべきは、このサイトがインターネットが引き起こしつつあるマーケティングパラダイムシフトのシンボリックな存在であることだろう。


すなわちマーケティングのいわゆる4Pのうち、プロモーションとプレースに地殻変動が起こっている。これを受けて『口コミマーケティング』、さらには『アイデス(AIDEES)』なるマーケティング手法(というよりは理論かな)が生まれた。


AIDEESとは何か。これまでいわれていたAIDMAとは、どう違うのか。


AIDMA(アイドマ)理論は、次のプロセスによって構成されていた。
 Attention:注目
→Interest:関心
→Desire:欲求
→Memory:記憶
→Action:購買
要するに、人が何かを買うまでには、これぐらいのステップを踏むという考え方だ。だから広告や各種セールスプロモーションが必要となる。


これに対してAIDEES(アイデス)は
 Attention:注目
→Interest:関心
→Desire:欲求
→Experience:購入・体験
→Enthusiasm(熱意・心酔)
→Share(推奨・忠告)


AIDMAと比べてみると、AttentionからDesireまでのステップは同じ。そこから先が違っていて、新しい考え方ではMemory(記憶)ステップをすっ飛ばして、すぐに購買となるようだ。なぜ、そうなるのかは説明されていない。しかしネットでの購買を考えてみるとわかる。


従来のAIDMAでは、AttentionからMemoryまでのプロセスと、最後のActionにははっきりとした断層があった。場所の問題である。つまりMemoryまでは家庭をメインとするさまざまな場所で行われ、最終的な購買活動は基本的に店頭である。だから商品との最終接点となる店へたどり着いたときに、商品を思い出してもらうこと、つまり記憶=Memoryが必要だった。


ところがネットでの買い物はどうか。


ネットではAttentionからExperience(購買と経験を一緒にしているけれど、この用語にはちょっと?だ)の購買までが、すべてネット上で完結している。たとえばAmazonで本を買う場合を考えてみればわかる。レコメンドや何らかの検索からアマゾンにたどり着いた時点ですでに「注目」プロセスは終わっている。そこからさまざまな情報を読んで関心を持ち、いいなあと思ったら(=欲望)、そこから先はワンクリックで終わる。


さらにAIDEESで重要なのは、買った後の行動である。


これまでも、何かを買った消費者が、その商品について語る機会はあった。それこそリアルな『口コミ』である。しかし、ネットが口コミのあり方を決定的に変えた。これまでの口コミはあくまでもリアルな場で行われたから、その相手も限定されている。知り合いのAさんとかBさんとかCさんとかである。


ところが口コミがネット上で行われるようになるとどうなるか。


口コミの相手が一気に(極端な話)世界中となる。まあ全世界はオーバーだとしても、自分のブログなどで特定の商品に対する自分の評価を書けば、その商品やジャンルに関心を持つ人の多くが口コミの相手となる。なぜなら、そうした関心を持つ人は、その商品やジャンルに関係のある言葉で検索をかけるからだ。


これがSNSであれば、その口コミは同じような関心をもつコミュニティで発言されることにより、より届くようになる。だから口コミマーケティングの時代だといわれる。


そして口コミを引き起こす力は、その商品を体験してみて(=Experience)、それに心酔すること(=Enthusiasm)から生まれる。逆にいえば、その商品を使った体験が心酔レベルにまで達しなければ、「大したことないよ」なんて口コミが広がる可能性もあるわけで、これはメーカーやサービスの提供者としては、実はより厳しい時代に入ったとも考えたほうがいい。


AIDEES(アイデス)理論はまだ、マーケティングセオリーとして確定したポジションを得たとは思えない。特に購買・体験が一つのプロセスとして定義されているあたりは、その解釈には流動的な要素が残っていると思う。


しかし、ネットの普及(ブロードバンド化や定額制、さらに今後はそれが携帯=24時間/30センチメディアで行われる)により、従来のマーケティング理論の柱となっていた4Pのうち、プロモーションとプレースにドラスティックな変化が起こっていることは間違いない。


これはチャンスである。





昨日のI/O

In:
『身体の言い分/内田樹
Out:

昨日の稽古: