プロの作る広告の効果は

atutake2008-10-30



上位十傑にプロがゼロ


リクルートの研究機関が立ち上げた『みんなのクリエーティブエージェンシー C-TEAM(→ https://c-team.jp/)』での結果だ。このサイトでは、一般の人でもクリエーター登録することによりバナー広告のコンペに参加できる。

広告主の依頼に基づき、たとえば「住宅情報ナビ」などの広告を必要なロゴ素材をダウンロードしたり、キャッチコピーを加えたりして制作し、投稿する。ペイントソフトを使える程度の知識があれば制作でき、デザインや広告制作を学ぶ学生の投稿が多い。対価は1バナーあたり五百ポイントで、現金に交換できる。審査をへてリクルートが購入したポータルサイト「goo」の広告枠で一定期間掲載する。クリック率上位のクリエーターには賞金ポイントも与えられる(日経産業新聞2008年10月29日付け)。


結構、画期的なシステムだと思う。理由は3点。まず正式にスポンサーが着いているということ。さらに対価が与えられるということ。クリック率が計測されるということ。


さらっと流してしまうと「ふ〜ん」で終わってしまうけれども、これは少なくともバナー広告に今後起こる革命の最初の萌芽ではないのか。


よろしいですか。


スポンサーがバナー広告コンペの門戸を、広く一般に開放した。これがどれだけ革命的なことかは、たとえばテレビCMを一般公募するようになった状況を想定してみれば良い。そんなこと、あり得ないでしょう。ところが、ことネットのバナー広告については、これまでなら考えられなかったことが現実となったわけだ。これが「蟻の一穴」にならないと、どうしていえようか。


しかもコンペに応募した作品の中から優れたものが実際にポータルサイト(といえばバナー広告の一等地ではないか!)「goo」に一定期間掲載される。スポンサーは、プロアマ問わず作品の質さえよければ広告としての価値を認めているということだ。


さらには、掲載された広告は「クリック率」で計測される。これはシビアである。その結果として冒頭に書いたようなケースが出ているらしい。つまりバナー広告に関しては、プロが完敗することもあり得ることが明らかになったわけだ。さもありなん。


プロが負けた理由はたぶんに、フォーマットがバナー広告であることによる部分が大きいのだと思う。すなわち極めて限定されたサイズの中でクリックしてもらえるだけの訴求力を持たせるためには、コピーとビジュアルのアイデアが極めて重要な意味を持つ。早い話がアイデア一発勝負なのだ。


もちろん、プロがアマに一般的にアイデアで劣っているなどとはいうつもりはない。いわないが学生さんや若い人たちの自由な発想に勝てないケースが出るのもいわば当然と思える。だってプロは、プロなりのルールというか文法みたいなものに、おそらく自分でも気がつかないうちに縛られていることが多いはずだから。これを自己規制と言い換えてもいいだろう。


プロとして実際にクライアントと仕事をしてきた経験の中で「これはやっちゃだめでしょう」とか「こんなアイデアは出してもどうせ却下だろうしなあ」と勝手に自分の思考の枠を狭めてしまうのだ。逆にそうやってある程度フレームを固めることによって、その枠の中での発想のスピードやクォリティを高めていくのがプロのやり方だと思う。


これに対してアマが、そうした自縄自縛に陥ることはない。それゆえイマジネーションを思うままに働かせることができる。その自由度においては檻の中のライオンとアフリカの大草原を駆け巡るチーターぐらいの違いがあるのではないか。


しかもバナー広告の小さな画面である。神が宿るほどの細部はない。少々デザイン面での完成度が低くともアイデアだけで勝負は決まってしまう可能性が高い。発想、アイデアならたぶんプロ、アマにそれほど差はないのだと思う。むしろプロの方がクライアント思考に寄っていたり、無意識の自主規制により発想に広がりが欠けることも考えられる。


ただ、プロには確かな技術力がある。こればかりは仕事という対価の発生する現場での厳しいやり取りを通じて培われる経験力がモノをいう世界である。だから、たとえば広告の紙面サイズが大きくなったり、あるいはCMのように動画や音声までも含んだ世界となるとアマには手が出ない。仕上げの精度が違ってくるのだ。そしてやはり「神は細部に宿る」のである。


ただしアマが手がでないのは、今の間だけという可能性もある。普通にビデオを撮影し、普通にパソコンで動画編集をし、普通に音声を入れたりするアマが、これからはどんどん出てくる可能性が高い。すでにYouTubeを見ていると、そうした傾向は明らかだろう。


あとはスポンサーがどう考えるか。ここで効いてくるのが、ネット系の広告は極めて冷酷に数値で評価が可能だということ。件の記事には「消費者発信型広告(Consumer Generated Advertising)の時代」とあったが、確かにそんな時代になるのかもしれない。さて、プロはどうやって生き残っていくのだろうか。



昨日のI/O

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大川弘一氏・インタビューメモ

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