真似て演じて自分流に
- 作者: 若林計志
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2011/10/19
- メディア: 新書
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このブログは、R+さんから献本いただいた『プロフェッショナルを演じる仕事術』若林計志著についてのエントリーです。
現場でたたき上げの営業マンが、必ずしも大勢の営業マンを束ねる営業マネジャーに向いているわけではない(『プロフェッショナルを演じる仕事術』若林計志/PHPビジネス新書、2011年、31ページ)。
野球の世界でも「名選手必ずしも名監督ならず」という。選手時代、すごかった人ほど、自分と同じようにできない普通の選手を理解できず、チームをまとめることができない。ところが、この定説を完全に覆した人物がいる。つい最近、中日の監督を退いた落合博満氏だ。
彼が名選手であったことに異論を挟む人物はいないだろう。ノンプロからプロ入りした落合選手は、独自の理論と練習法を貫き、三度の三冠王を獲得した。選手として輝かしい実績を残した後、コーチを経験することなく中日の監督に抜擢された。そして8年間の監督生活でリーグ優勝4度、日本一にも輝いている。
なぜ名選手落合は、名監督落合となり得たのか。
その理由が、本書を読めば理解できる。
落合氏は監督として守るべき「型」を徹底したからだ。野村克也氏は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と喝破した。その意味するところは、負ける場合には必ず理由があるということ。従って負ける理由を取り除けば負ける確率は下げられる。
落合氏が徹底したのは負けない野球である。負けないためには、どうすればいいか。守りを固めることだ。その落合式負けない野球を、もっとも象徴的に示したのが、日本シリーズで完全試合を目前にした山井投手を、何のためらいもなく、より確率の高い抑え投手岩瀬に交替させたことだろう。
山井の完全試合より何より負けないことを徹底する落合流監督術の真骨頂が、あの交代劇には示されていた。負けない野球を徹底したがゆえに中日がBクラスに落ちることは一度もなかった。
元より落合氏は、誰かの真似をしたわけではないのだろう。しかし、彼は彼なりに「負けない野球の型」を徹底的に追究した。然る後、中日ドラゴンズのチーム事情に合わせてリファインし、オレ流に昇華することで監督のプロになった。
本書に落合氏のケースが書かれているわけではない。が、本書が説くのは、自分がはまるべき型を見つけることの重要性である。
プロになりたいのなら、まずこれはと思う型を見つけることだ。たいていの場合、型は師から学ぶことになる。型の学びは真似びである。師を厳格に真似ることで、それまでの人生で自分が自然に身につけた歪みや偏りを徹底的に矯正する。これを本書では「アンラーン」と呼んでいる。
真似びの後、学びを自分流にアジャストする。ここまでに一万時間をかける。そうすれば師の教えを自家薬籠中のものとし、自分が誰かに教えられるレベルに達する。これすなわちプロレベルである。このプロセスを日本の伝統芸能や古武術では「守破離」と呼んだ。本書でも同じことが書かれている。
本書には、人の成長を妨げる心理的な罠もいくつも記されている。そうした罠にはまらず、本当のプロを目指したい人には(一万時間はかかるけれど)とても参考になる一冊だ。